生まれ育った町から大阪に進学、東京、ニューヨークへ。「好きな写真を撮りたい」を軸に、生きる場所を選び道を拓いてきた人がいる。フォトグラファー・山田真実さんは今、故郷の鳥取に拠点を移し、新たな種を蒔き始めている。


自分と被写体との関係性から生まれる1枚を撮りたい

アメリカで出産し一緒に帰国した愛娘の撮影はライフワーク。9月下旬、鳥取砂丘に近いラッキョウ畑で無心に花を摘む2歳のみこちゃん。ラッキョウの花は意外にも可憐で「ラベンダー畑のように美しかった(笑)」と山田さん。
アメリカで出産し一緒に帰国した愛娘の撮影はライフワーク。9月下旬、鳥取砂丘に近いラッキョウ畑で無心に花を摘む2歳のみこちゃん。ラッキョウの花は意外にも可憐で「ラベンダー畑のように美しかった(笑)」と山田さん。

 写真に惹かれたきっかけは、高校生のころに一世を風靡したガーリーフォトブーム。蜷川実花やHIROMIXの作品は衝撃だった。

「被写体は友達や身近なもの。彼女らの目に映る日常を切りとった写真は斬新でした。自分と被写体の関係性を写しとれる写真って、いいなと思ったんです」

高校生のころからニコン一択。大好きな鳥取の海岸で。
高校生のころからニコン一択。大好きな鳥取の海岸で。

 写真の魅力に取り憑かれた山田さんは、進学先に大阪芸術大学写真学科を選んだ。在学中は長期休暇のたび北海道や与那国島へ。住み込みでバイトをしながら写真を撮り、タイやインドへもカメラ片手にバックパックの旅に出た。

2003年、インド・オリッサ州で。地域サポートや交流を目的にしたボランティアプログラムに参加。3週間にわたり一般家庭で寝食をともにした。
2003年、インド・オリッサ州で。地域サポートや交流を目的にしたボランティアプログラムに参加。3週間にわたり一般家庭で寝食をともにした。

 旅の動機は好奇心。どこへ行くにも長期滞在が原則だ。

「体験してみたいし暮らしてみたいし写真も撮りたい。未知の世界に飛び込むことに躊躇はありませんでした」

北海道・上士幌町の牧場にて1997年。文藝春秋入社の契機となった公募展入選作品。
北海道・上士幌町の牧場にて1997年。文藝春秋入社の契機となった公募展入選作品。

 現地の日常に溶け込んでこそ見えてくるものがある。そんななかで撮った1枚が、やがて彼女の人生を左右する。北海道で撮った牧場の写真が公募展で入選。それが縁で文藝春秋に写真部員として入社することに。

 ラッキーだったと山田さんは笑って話すが、同期が学生生活を謳歌するなか、ひとり続けてきた作品づくりが実を結んだということなのだろう。

2022.04.09(土)
Text=Mutsumi Hidaka
Photographs=Mami Yamada

CREA 2022年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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