「『ダブルミンツ』から、出演者が作品に対して誇りを持ってくれた気がする」(オカリナ)

E 2016年末に「おっさんずラブ」の単発が、2018年に連続ドラマの第1シリーズが放送され、そのあたりから一気に、日本でもBLドラマが盛り上がってきました。

O その間、2017年に中村明日美子さんの同名BLマンガを原作とした映画『ダブルミンツ』があったんですよね。ボイメン(BOYS AND MEN)好きなんですけど、元BOYS AND MENの田中俊介くんが出ていて、作品に対してすごい誇りを持ってくれていたんです。『ダブルミンツ』の頃から、出演者がBL作品に出ていることに対して誇りを持つようになったんじゃないかと思います。

K 田中俊介くん、本当にありがとう!!  『ダブルミンツ』での鬼気迫る演技もすばらしかったですね。あと、私が「おっさんずラブ」を観ていて感心したのは、「ホモ」「おかま」「そっちの人」といった、ゲイを蔑視するような言葉が一切使われていないことですね。それだけでこんなに安心して見れるんだって驚きました。

E 実は、ドラマが始まったとき心配でもあったんです。ちゃんとフェアに描いてくれるのかと。単発ドラマと連ドラ1話目くらいまでは「ん?」というところもあったけど、だんだん無くなっていきました。貴島(彩理)プロデューサーは「男性同士の月9のつもりで作った」とおっしゃってました。

O 近未来感がありましたね! 偏見が無かったらこんな感じなのかなって。

K さらに翌年の2019年には、これも厳密にはBLレーベル作品ではないのですが、よしながふみさんのマンガを原作として、テレビ東京制作のドラマ「きのう何食べた?」が放送されます。

O いやー、素晴らしかったですね。

E 同じよしながさん原作の「アンティーク~西洋骨董洋菓子店~」から、約20年。ゲイの扱われ方の違いに、時代の流れを感じます。

一同 ねぇ!

O 作っている料理も良いんですよね~。

K 「おっさんずラブ」と「きのう何食べた?」という、2つのドラマが立て続けにヒットしたことで、流れが変わったんですよね。昔ながらのBLファンや若手俳優ファンだけではなく、初めてBLドラマを見て、面白い、ときめくという視聴者が現れて市場が広がった。後述のタイドラマブームもあり、この頃にBL実写作品をめぐる社会状況が大きく変わったと思っています。一方で、2020年に公開された映画『バイバイ、ヴァンプ!』が大炎上しましたね。

E 大問題作。ヴァンパイアに噛まれたらゲイになるという設定。

K 「感染」というのがまず差別的で、しかも感染して同性愛者になると、見境なく乱交するようになるというのがもう完全にNG。ゲイ当事者の方を発起人として、公開をいったん中止してほしいという署名活動も起こりました。

O ありえないですね……。

K さらにこの頃の動きとして見逃せないのは、コロナ禍でみんながステイホームしていたので、YouTubeを見始めて、タイのBLドラマにハマったこと。こんな面白いドラマがたくさんあるなんて! と、タイのドラマ制作のクオリティにびっくりしましたね。そして2020年には、豊田悠さんのBLマンガ原作で、テレビ東京が制作した「チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)」が大ヒット。もうね、原作に目を付けた人がすばらしい。

O 私、漫画を読んでたんですけど、まさか実写化されるとは思わなかった。

K 「他人の心が読める」というのは、ありがちといえばありがちな設定なんだけど、「チェリまほ」では心の機微を非常に繊細に描いているのが卓抜なんですよね。30歳まで童貞でいた主人公(安達)が、他人の心の声が聞こえるようになった、という戸惑いから入って、自分のことを好きだと思ってくれている人(黒沢)がいることを知る。

O 自分(安達)のいいところを黒沢が肯定してくれて、自分自身のことを好きになるんですよね! 好きになる過程がちゃんと描かれているのがいい!

E 黒沢が安達を好きになる瞬間を描いた、公園でのシーンが素晴らしかった! 一瞬で世界が違って見えますよね。監督、脚本家のこだわりが感じられました。

K そして2021年に同時期に放送されたのが、ひねくれ渡さん(原作)とアルコさん(作画)の同名マンガを原作とする、テレビ朝日の「消えた初恋」、そして凪良ゆうさんのBL小説を原作とする、毎日放送の「美しい彼」。両極端の作品ですがどちらもすばらしかったです。「消えた初恋」は「別冊マーガレット」掲載作品なので、BLマンガというより少女マンガらしい作品で、悪い人がひとりもいませんね。安心して観られます。

O それ大事! 悪い人がいないのは大事ですよね。

K 「消えた初恋」には、同性愛について偏見を浴びせてきたりするキャラもいるんだけど、ちゃんと間違っているのは自分だって反省したりするんです。それに対して「美しい彼」のほうは、絵に描いたような「良い子」ではなく、他人に対して過剰に執着してしまうキャラと、プライドが邪魔して素直になれないキャラが主人公です。どちらかといえば「美しい彼」のほうが「BLジャンルならではのセンス」が強いので、初心者の人はぜひ、こちらも楽しんでもらいたいなと思います。

O あれ、もう1時間経ったんですか?

E これ3時間くらいやりたいね。

K いや、8時間くらい……(笑)

2022.03.17(木)
文=てれびのスキマ
撮影=平松市聖