監督から「台本を書いたほうがいいですか?」と訊かれて返した言葉

――間もなく公開を迎える短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season2』の一篇『The Little Star』では、妻役での出演でした。紀里谷和明監督、山田孝之さん主演と期待の高まる布陣です。

 紀里谷さんといえば、『SAKURAドロップス』(宇多田ヒカル)のMVが大好きで、若かりし頃、カラフルな色使いにすごく衝撃を受けました。ご一緒することになると聞いて、ここまですごいクリエイティブをされる方なので、「きっと怖い人なんだろうな……」と思っていました。けど、実際お会いすると、めちゃくちゃピュアな方だったんです! びっくりしました。

――もともと紀里谷監督にオファーされた形だったんですか?

 キャスティングのとき、紀里谷さんは私のことを知らなかったそうなんです。何かを見て選んでくれたと言っていたんですが、「ごめんね、僕わかんないんだけど……」と言っていました(笑)。でも、衣装合わせのとき、「見えた!! よし、これ、いけるよ!」とまるで少年のように言ってくださって。

――実際、現場ではどのようなやり取り、演出があったんでしょう?

 最初、紀里谷さんから「台本を書いたほうがいいですか?」と言われて、孝之は「書かなくていい」と言っていたんですね。私も「書かなくていいですけど、空っぽで行くので、紀里谷さんが演出してください。染まった中で演じます」とお話しました。というのも、今回、私は断片的にしか出演しませんし、アドリブも多い現場になると思ったので、そう伝えたんです。

 空っぽで行って、その中から紀里谷さんとのケミストリーで自分の中にある感情が、今までの経験と哀しさ、怒りが結びついたときにどんな表現になるのかな、とすごくワクワクしました。だから紀里谷さんにゆだねよう、お任せしようと思いました。

――演技のアプローチをこれまでと変えたんですね。松本さんが演じた役は、子どもを亡くす母なので、そういった意味でも決して明るくはない役ですよね。

 本当に、つらい役じゃないですか。長期間その状態でいると、やっぱりきついですし、ちょっと壊れちゃうんです。そうしたいつものやり方は正攻法かもしれないけど、それ以上にはならないのかな、と考えました。だから、全然できないかもしれないけど、まったくやったことのないやり方をしてみようと思ったんです。

 演技のやり方や演じ方は、いろいろなアプローチがあっていいと思うんです。根詰めてその役になる方法もあれば、今回のように「自分の武器を持たずに行こう」という方法もある。型にはまったいつものやり方を選択せずに、面白いと思う方を選択しました。

 現場では、紀里谷さんは私の役になって、本当に熱く演出してくださいました。その姿を見て、「本当に泣いちゃうんじゃないか、壊れちゃうんじゃないか」と衝撃を受けるくらい。これだけ格好いい画づくりをされる方なのに、中身はめちゃくちゃピュアで、そのギャップに驚きましたし、すごく信頼も置けました。

2022.02.18(金)
文=赤山恭子
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=板垣実和
スタイリスト=乾 千恵