ずっと裏方になることが夢。それだけは諦めない
――歌うことが楽しいという感覚はあるんですか?
中島 歌っている瞬間はいつも楽しいです。でも、イントロとアウトロは、ふっと素に戻る。歌い出すとめちゃくちゃ楽しいし、それは記憶が飛ぶぐらい(笑)。でも、一旦ステージを降りてしまうと、その楽しかった記憶がすべて消えて、反省会に変わる。いつもそうなっちゃうんです。中島美嘉が歌っている瞬間を私自身は覚えてなくて、「あのときどうしてたかな?」と考えている時間の方が長いから、本来は、裏方の方が合っているのかなと思います。
――裏方ですか?
中島 はい。本当に、ずっと裏方になることが夢。それだけは諦めない(笑)。ただ、私が歌を続けられたもう一つの理由は、私の歌を聴いて、「救われた」とか「気持ちが前向きになった」という言葉をいただくことがあったからです。私は歌が上手いわけじゃないですし、特別な才能があるわけではないけれど、私の歌が、誰かの心に作用することがあると知った。それは、表に出る立場だったから体験できたことなんですよね。そういう、ファンの方達との心の交流のようなものがなかったら、私は今頃、この世界にはいなかったと思います。
――そして、そのファンの人たちは、中島さんがこれから先もずっと歌い続けてくれると思っていると思いますが。
中島 はい。そう思っていただくことは有り難いですし、きっとそうなっていくだろうなと思っていたりもします。ただ、どうしても根本って変わらないので、「いつか裏方に」っていう野望は捨てられないかもしれませんが。その一方で、得意じゃないことだったから、20年続けることができたのかもしれないとも思います。ずっと「どうしようかな」って考えながら、進んでこられたので。
――それにしても、中島さんの根っこは、少女時代から変わらず悩んじゃうんですね。「いいじゃん!」と開き直れない。
中島 それを、どうにか変えたいと思うんですけどね。ステージで歌って、せっかく楽しい気持ちになれたのに、その場を去るとすぐ違うことを考えてしまって、楽しいことが脳内に残らない。でも、みんなでワイワイと何かをしているときは、すべてが楽しさで塗りつぶされるので、だったら裏方に……って思っちゃうんです。
――でも、そうやって苦しむからこそ、ステージ上で煌めくんでしょうけど。ファンは、非日常を観に行っているので。
中島 そうですね。私は、歌っている側の出来不出来って、お客さんには100%伝わるものだと思っているので、つまり、いいときだけじゃなくて、「あれ?」って思っている瞬間も伝わるわけじゃないですか。それが怖いから、あれこれ考えちゃうんだと思う。でも、歌っているときだけは、一瞬、「しまった!」と思ってもすぐ持ち直せるんです。
(後編につづく)
中島美嘉(なかしま・みか)
2001年「傷だらけのラブソング」で主演デビュー。歌手デビュー曲となった主題歌の「STARS」はビッグセールスを記録した。「WILL」「雪の華」「GLAMOROUS SKY」など多くのヒット曲を発表し、これまでに9度のNHK紅白歌合戦出場を果たす。歌手以外にも、国内外の映画、ドラマ、ファッションなど多岐に渡り活躍。近年は野外フェスへの出演やアコースティック編成、ロックバンドなど様々なジャンルのライブ活動を精力的に展開。デビュー20周年の今年は、6月から8月まで、全国16都市を回る全国ツアーを開催した。
『SYMPHONIA/知りたいこと、知りたくないこと』
株式会社ディー・エヌ・エー企画、豪華クリエイター陣参加のスマートフォン向けアプリゲーム「takt op.(タクトオーパス)運命は真紅き旋律の街を」の主題歌「SYNPHONIA」は多くのテレビアニメ曲を手がけ、自身もアーティストとして活躍する“rionos”提供。テレビ朝日系金曜ナイトドラマ挿入歌「知りたいこと、知りたくないこと」の歌詞は秋元康が担当した。WA-Side シングル。2021年10月27日(水)リリース。
2021.10.28(木)
文=菊地陽子
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=小林潤子(オーガスト)
スタイリスト=松尾明日香