世間がイメージするようなクールな自分でいなくて済む
――当時、『NANA』はまさに社会現象でしたからね。でも、そうやって仕事を続ける中で、充実感が伴ってきたり、やりたいことが生まれてきたりしなかったんですか?
中島 それはないです。どうやって演じればいいのか。どうやって歌えばいいのか。それをずっと探る毎日でした。
――人気者になることで、人から必要とされる喜びのようなものを感じるとか?
中島 喜びと苦しみは、いつもどっちもありましたね。そうやって、大勢の人に受け入れてもらったことで、「ああ、私はここにいていいんだ」という嬉しさと、その一方で、誤解を恐れずにいうと、「私の性格でこの状況は、責任が重すぎる」という苦しさが、交互に来る感じというか……。
――その正直さ、取り繕わない感じも、中島さんが唯一無二である理由の一つですよね。正直さを貫くことよりも、優等生的なコメントをした方がずっとラクなはずなのに、それをしない。
中島 たぶん、そのラクな方をやってみたこともあると思うんです。ただ、求められている答えを言ったとすると、それは私にとってちょっとした嘘をつくことになりますよね? 自分がついた嘘ってすぐ忘れるので、「前にこういうことおっしゃってましたよね?」と言われても、全然思い出せなくて、色々辻褄が合わなくなる。それが嫌になったのかもしれない。
――以前インタビューしたときは、チームであることが、一番の原動力であるとおっしゃっていました。歌手の場合、歌っているときは孤独かもしれないけれど、ご自身は表に立っているだけで、中島美嘉を作っているのは大勢のスタッフなんだと。
中島 昔も今もそれが私の続けている理由であることは間違いないです。私のパートナーは仕事じゃなくて、あくまで人間。どんなときも人間と仕事をしているわけで、そうすると、チームで一緒になった人とは、仲良くなりたいと思う。どうでもいい話で盛り上がったり、些細なことで笑ったり。
もちろん、集中するときはするんですが、楽しく、仲良くしていられる人が多いと、世間がイメージするようなクールな自分でいなくて済む。割と、苦しみみたいなものを抱えやすい性格なので、チームの人たちといるときは、ラクでいたいんです。でも、それは私に合った仕事の仕方がこうだというだけで、公私の区別がちゃんとあって、仕事のときはビジネスに徹底できる人たちのこともすごいなと思います。
――チームで働くことが性に合ってると分かったタイミングは?
中島 いつの間にか、ですね。でも、10代でこのお仕事をするようになって、ものづくりの現場って、いろんな才能の集まりなんだと分かったことは大きかったかもしれない。たまたま、私は歌と、表に出る担当だけど、このチームではメンバーの一人に過ぎないと思っています。むしろ、みんなの才能をまとめて、それを発表するのが私の役割なんだなって。
2021.10.28(木)
文=菊地陽子
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=小林潤子(オーガスト)
スタイリスト=松尾明日香