欲求が削ぎ落ちていき、人生の最終的な終着点が見つかった

――杉野さんは家族の中ではどんなキャラだと思いますか?

 たぶん一番、掴めない奴なんじゃないかなって思います。小さいころは、気になる習い事があったらやりたいって言ってはすぐ辞めてっていう繰り返し。何事も長くは続かなかったなあ。突然、生徒会やってみたいって手を挙げてみたり、マラソン大会で一位を取りたいって、毎日ランニングしてみたり。そんな掴めないというか、家族の中で唯一、ややこしい奴だったんじゃないかな。

――熱しやすいタイプなんですか?

 いや、いろんなことにとにかく興味があったんでしょうね。でもやってみるとなんだか違うってなってしまう。一つのことを続けるというのが、なかなかできなかったんです。長く続けたと言えば、バスケぐらいかな。けど、それも割と仕方なくというか、他にやりたかったこともなかったし、これならできるというちょっと後ろ向きな理由だったんですけど。

――でも今、まさに一つのことを続けてらっしゃるじゃないですか。

 最初は不純な動機だったんですけどね。キラキラしていて、楽しそうだなって。

――今も楽しいという実感はありますか?

 はい、楽しいです。でも、始めたころに比べて楽しさの内容が変化してきました。最初はいろんな人がいる、いろんな経験ができる、いろんな人と喋れる、だったんですけど、だんだんと慣れてくるじゃないですか? 最初にその慣れを感じた時、自分はなんでこの仕事やっているんだろうって思って、悩みました。

 いろいろと考えて、人と話すのが楽しい、お金が欲しい、知名度が欲しいとか、僕はそういうことを求めていたわけではないなって気づいたんです。もちろん、そういう欲求が0というわけではないんですけど、限りなく薄いです。コロナの自粛期間を経て、その傾向がより強くなって。欲求がどんどん削ぎ落ちていっているんです。

 みんなが僕のことを知ってくれるのは嬉しいことだけど、知られ過ぎても生きづらくなってしまうし。

 でも実は、やりたいことが今は見つかったんですよ。夢というか。

――どんなことですか?

 コロナが落ち着いて世界がもうちょっと開けた時の話なんですが、1〜2年くらいお休みをもらって、アフリカとかで、現地の子供たちと一緒になんかやってみたいなあって。井戸を掘ってみたり、木を植えたり、これからのためになることをしたいです。そういう意味で夢はいっぱいあるかな。

 地球の未来のために、今何ができるのかというのを世界を旅しながら探求していく『ザック・エフロンが旅する明日の地球』というドキュメンタリーを観て、こういうことがやりたい! と思ったんです。まあ、今はまだ遠い夢の話、人生の最終的なご褒美なのかなって思いますが。

 その夢のためにも、今は役者の仕事を頑張りたいし、楽しいって純粋に感じています。ありがたいことにいろんな役や作品と出会えていますし、いろんな人から愛情を感じますから。演じさせていただいた後に「良かったな」って思うことが本当にたくさんあって。今はその繰り返しに充実しています。

――良かったなと思うこととは?

 役者としてはもちろん、人間として成長させてもらう機会をいただけていることです。あとは、自分が伝えたいことが作品を通して世の中に届いて、人の心を揺さぶったり、何かしら波風を立たせたり、そういう反応が見れた時に嬉しいなって思います。

 役者として、表現者として深いところに行けば行くほど、そういう喜びというのも大きくなる。そのためには人間としても成長をしなくてはいけないし、辛さを感じたり、きついと思うこともある。ただただ楽しい一辺倒というわけではないのが大変でもありますが、役者としての仕事にやりがいを感じています。自分が進むべき道がしっかり見えているというか。それって凄く幸せなことですよね。

――幸せってはっきり言えるって充実している現れですね。

 そうですね。今の自分に迷いとかはないですね。

2021.09.24(金)
文=渡里友子
写真=鈴木七絵
スタイリング=伊藤省吾
ヘアメイク=後藤泰(OLTA)