夢をたぐりよせる秘訣はご縁と運、そして妄想!?
昨年は3月から7月まで 歌舞伎公演の中止が続き「これまでを振り返らざるを得ない日々」の中、改めて実感したのは「ご縁と運」だそうです。
「母の膝の上で目にした歌舞伎に夢中になり自分もやりたいと思ったのが、役者になったそもそもの始まり。周りの大人たちから『無理だよ』と言われても、『どうしてもやりたい!』という気持ちは変わりませんでした」
歌舞伎を演じている自分の姿を夢想して劇場のロビーで芝居の真似をしていたところ、日本舞踊家の花柳福邑さんに声をかけられ、踊りを習い始めたというのは有名な話です。そしてそれをきっかけとして梅玉さんに入門することとなったのでした。
「自分が『こうなったらいいな』と思うことを、ありがたいことにいつも皆さんがかなえてくださるんです。それは本当にご縁と運としか言いようがないです」
やがて女方を中心に活躍の場を広げ、若手歌舞伎俳優の登竜門といわれる「新春浅草歌舞伎」の常連メンバーにもなり、新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』ではヒロインの春野サクラを演じた莟玉さん。現在の状況を切り拓くことができたのは、あきらめずに夢を持ち続けたことにあるようです。
「夢というより妄想です(笑)。歌舞伎座での莟玉披露は『菊畑』の虎蔵だったのですが、実は秘かに披露の場で自分が虎蔵を演じている姿を思い描いていました。
虎蔵は養父が得意とする役のひとつで、その養父の姿に憧れていたんです。とても大きなお役ですし、立役にも挑戦したいと思うきっかけとなったお役でもありました」
「ですが本当にただの妄想。その一方で、強く思う気持ちが動かす何かもあるのかな、という気もしています。スピリチュアルなことを信じるタイプでは全然ないのですが、あきらめが悪いのは確かです(笑)」
その“妄想”は現実となりました。
「夢のような話で本当に驚きました。他にも20代前半のうちに海外で外国人の方に古典の歌舞伎をお見せする公演に参加することができたら 、などと思っていたらそれも実現したんです」
2017年7月、アメリカ・オレゴン州のポートランド日本庭園で行われた公演で、莟玉さんは可愛らしい娘姿で『手習子』を踊ったのでした。
「お客様は99パーセントアメリカ人で現地在住の日本人が混じっているという感じでした。
ほぼ全員が歌舞伎を初めてご覧になるという状況だったのですが、日本で上演している時とまったく同じところで拍手が起こったんです。
その時に歌舞伎には言語を超えた、ノンバーバルな芸術性があると実感しました。自分のような拙い演じ手でもお客様にお伝えできる要素が歌舞伎には含まれているのだと思いました」
2021.03.14(日)
文=清水まり