「一門が活気づいたね」と思ってもらえるように

 兄弟子の中村梅乃さんの心強いサポートを得ての公演で、莟玉さんは梅玉さんを中心とするご一門の皆さんとの関係が、近年になってより濃密になっていることに喜びを感じているそうです。

 「外から入った者にとって最初の課題は一門のカラーに染まれるかで、それが壁になる人もいると思います。でも自分は違いました。壁を壁と感じさせない雰囲気を皆さんがつくってくださっていたんです。養父を始め皆さんに育てていただき、自分はここまで来られました」

 だから莟玉さんの目下の妄想、ではなく願いは「一門に恩返し」をすること。

 「莟玉が養子になったことで一門が活気づいたね、と思ってもらえるような役者になりたいです。幼い自分が歌舞伎を観て『なんて素敵な世界なんだろう』と思ったように、お客様にそう思っていただける存在になれたら。ひいてはそれが、自分を受け入れてくれた歌舞伎そのものへの恩返しにもなると信じています」

写真をもう一度見る(アザーカットあり)

【もっと知りたい!】莟玉という名の由来は?

 莟玉という名の由来は、梅玉さんの養父である六世中村歌右衛門さんが行っていた公演「莟会」と梅玉さんのお名前にちなんだもの。2001年、莟玉さんが5歳の時にご逝去された歌右衛門さんは、昭和を代表する女方として頂点を極めた名優です。
 「無宗教の自分が神様のように思っている方で、毎朝お写真を拝んでいます。実際にお会いしたことがないのにそこまで存在の大きさを感じるのは、養祖父の精神性が一門の中に脈々と受け継がれているからだと思います」
 歌右衛門さんは海外公演でも高い評価を得ていて、三島由紀夫やグレタ・ガルボなど国内外の名だたる著名人からも称賛されたことでも知られています。
 「歌舞伎はいつの時代もその時代を生きた人たちを楽しませてきたのだということを実感します。その結果として400年以上続いてきた。その長い歴史を思えば危機的状況は何度もありました。歌舞伎をひとつの生命体に例えるならその生命力はとてつもなく強い。だからその強い生命体の栄養になれるよう、それにはどうすればいいかを考えていきたいと思います」

●莟玉さん 第一部『戻駕色相肩』禿たより役で出演中!
三月大歌舞伎

期間 2021年3月4日(木)~29日(月)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時~
第三部 午後6時30分~
※休演 11日(木)、22日(月)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/704/

中村莟玉(なかむら・かんぎょく)

1996年生まれ。2004年、中村梅玉に見習いとして入門。2005年、国立劇場にて『御ひいき勧進帳』富樫の小姓で森正琢磨の名で初舞台。2006年、梅玉の部屋子となり、歌舞伎座『沓手鳥孤城落月』の小姓神矢新吾、『関八州繋馬』の里の子竹吉で中村梅丸を名乗る。2019年、梅玉の養子となり、11月歌舞伎座『鬼一法眼三略巻』菊畑の奴虎蔵実は源牛若丸で中村莟玉と改名。梅丸時代の名前に由来する、“まるる”“まるちゃん”という愛称で親しまれている。