“マスクガチャ”と“ピンクマスク騒動”で 認知度が一気にアップ
「ところが、2017年の発売当時というのは、実はあまり受け入れられなかったんです。ビビットな色みが斬新すぎたんですね。そのような商品を扱った前例がないからと、他の医療消耗品で取引のある薬局ですら商談に応じてもらえなくて。
そんな状況下、ターニングポイントのひとつとなったのが、人気アーティストの謝金燕(ジェニー・シエ)さんとのコラボレーションでした。
2017〜2018年にかけて行われたコンサートで配布されたレース模様のマスクが話題となり、CSD中衛ブランドの認知度がぐっと高まったのです。芸能人とのコラボなんて、当時は誰も考えたことがなかったアイデア。それが奏功しましたね」
コラボレーションマスク「csd×謝金燕 姐姐・蕾絲口罩」(非医療用)は、製作に最も手間のかかるマスクのひとつであり、コロナ禍においては生産が見送られていたが、ファンの熱い要望に応え、2020年7月末に自由販売分として出荷。もちろん、この騒動も各局が報じるニュースとなった。
対して、カルチャーシーンや流行にそれほど敏感でない一般的な人々が「CSD中衛」を知ることとなった、いくつかの出来事がある。それはコロナ禍における政府の管理販売下でのこと。
ひとつめが、いわゆる“マスクガチャ”だ。管理販売で購入するマスクの種類は、その時々のデリバリーによって異なるため、どんなマスクが“当たる”のかは、受け取るまでわからない。
政府主導で作られる水色や薄緑色が大半を占めるなか、ビビットカラーやヒョウ柄、水玉模様などの変わり種が混ざっていることもあり、それらを引き当てた人がSNSで拡散。
なかでも「CSD中衛」製のカラーマスクの鮮やかな発色に対する驚きと羨望は、知名度を高めるのに大きく貢献した。
「政府による徴収は2020年1月31日(金)に始まり、それから毎日90万枚を生産、1週間で約500万枚を提供していました。
カラーマスクは材料のコストが高いうえ、製造プロセスや手間が多い。負担や効率を考えると“徴収令下では作らない”という選択もありましたが、カラーマスクのメーカーであるイメージを損なわないためにも製造を続行。
しかし多くは作れませんでした。その結果、消費者の皆さんに“イースターの卵”のような、開けて驚く楽しみを提供することになった格好です」
もうひとつのエピソードは、日本でもたびたび報じられている“ピンクマスク騒動”での計らいだ。
これは、管理販売でピンクのマスクが当たってしまった男の子が「ピンク色のマスクで学校に行きたくない」と言って困っているという母親の声を受け、中央流行疫情指揮中心(中央感染症指揮センター)の定例会見時、厚労大臣に相当する陳時中指揮官をはじめ、登壇した男性全員がピンク色のマスクを着用。台湾中から拍手喝采を浴びた一件だ。
これを機に様々な組織や企業が公式HPのロゴなどをピンク色に変え、ジェンダーフリーを訴える一大ムーブメントに発展していった。
「当社では、大人用の徴収マスクに10万枚の櫻花粉(さくらピンク)を投入しました。身に着ける色の問題でいじめられない世の中にするには、まずは大人がお手本を示すべきだと。
多くの大人にピンク色のマスクが届けば、それが可能になりますよね。小さなことかもしれませんが、一人一人に立ち上がってもらうことが大切だと感じたのです」
指揮官らのパフォーマンスとメーカーの粋な計らいによって、街中には、老いも若きも、ピンク色のマスクを着けた男性が目立つように。小学校高学年の男の子が颯爽とピンク色のマスクで登校している姿には胸が熱くなった。
しかし、このエピソードが日本に伝えられても、男性たちの声は「ピンクはなかなか、ちょっと……」と躊躇するものが大半だったように思う。
「男性でピンク色を抵抗なく着けられるのは、自分に自信がある証。それでなくとも、ピンク色はとても肌なじみがよく、誰にでもよく似合う色味なんです。男性も一度着けてみて、顔色が明るく見えるのを実感してほしいですね」
2020.09.06(日)
文・撮影=堀 由美子
写真提供=CSD中衛