ロミオ役を演じるのは
意外な相手?
[場所:都内某所/時刻:14時半頃/天気:小雨]
2018年12月、森川葵さんは『ロミオとジュリエット』のヒロインを演じる。演出は宮藤官九郎さん。この舞台のことは、ドラマの撮影現場でも共演者の間で話題になっていた。
「『絶対に面白いよね。すごく楽しみ!』とみなさん言ってくださるんです。宮藤さんですから、面白くならないはずがない。逆の立場なら私もそう言うと思うのですが、周囲の期待値が上がっているぶん、プレッシャーも感じています」
今回が初舞台。なにより肝は、相手のロミオ役が50歳の三宅弘城さんということ。おじさまロミオに、なぜジュリエットは夢中になったのか。そこがお楽しみポイントであり、演じる側からすれば、大きな課題だ。
「その疑問を抱かせずにお客様に観ていただくことが大事だと私も思います。でも、初めてお会いしたとき、三宅さんのまとっている空気が本当に優しくて、この方のロミオだったら安心して恋人役ができそうと思いました」
現在出演中のドラマ『文学処女』をはじめ、森川さんはこれまでに数多くの恋愛作品に出演してきた。相手に振り回される役、振り回す役、せつない片思い等々、恋する役はどんなふうに演じているのだろう?
「役とはいえ、会って急に好きになれるものではないと思うので、撮影で時間を重ねる間に、その役の人の素敵なところを一つ一つ見つけて、気持ちを高める作業はしていますね」
憑依型俳優として誉れの高い森川さんだが、演技がしたくてこの世界に入ったわけではなかった。
「『Seventeen』のオーディションが入り口だったんですが、それもお小遣い欲しさに応募していました(笑)。まだ中学生で、アルバイトができなかったので、自分にできることを探して見つけたんです。でも、オーディション会場に行ったら、背が高くてスタイルのいい子がたくさん集まっていて、来るところを間違えてしまったと焦りました」
コンビニのお菓子を自分で買いたかっただけ、という微笑ましい応募理由でも、その後の人生を変えるチャンスをつかんだのだから、すごい。
「今年就職した学生時代の友達が、『疲れた。仕事、行きたくない』と漏らしているのを聞いて、そういえば、私はそんなふうに思ったことがないなと思ったんです。体力的に疲れることはありますけど、仕事に行くのが嫌だと思ったことは一度もない。それは、実はこの仕事が自分に合っているからなんじゃないかと、改めて気づきました」
俳優を始めて6年目。演じる楽しさと難しさを日々感じている。
「長いシーンなのに、気づくと撮影が終わっていたというような、時間の感覚が無くなるときがあるんです。現場にいる全員の集中力が高まって、みんなで『ゾーン』に入り込む感じ。それはすごく気持ちがいいです!」
演じる楽しさに突き動かされて走ってきたけれど、友人の言葉にもう一つ気づかされたことがある。
「人としてちゃんと生活をしていないなあと思ったんです。仕事をしながら、個人の人生を楽しむことも必要なのかなと最近思い始めています」
直感の鋭い森川さんのこと。その選択もすばらしい未来に続くはず。
森川 葵(もりかわ あおい)
1995年生まれ、愛知県出身。2010年雑誌『Seventeen』の専属モデルに。12年に女優デビュー。主な出演映画に『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(16)、『恋と嘘』(17)、『リバーズ・エッジ』『OVER DRIVE』(ともに18)など。
ドラマに『ごめんね青春!』(14 TBS)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(16 フジテレビ)、『バカボンのパパよりバカなパパ』(18 NHK)、『GIVER-復讐の贈与者』(18 テレビ東京)『文学処女』(18 TBS)など。映画『耳を腐らせるほどの愛』が来年公開予定。
舞台『ロミオとジュリエット』
「宮藤さんの作品は、観ていて笑いながらなぜか泣けてきます」とその重層さを指摘する森川さん。
今回は、シェイクスピアの戯曲をあまりアレンジせず使う予定。歴史的な名作が、悲劇になるのか、喜劇になるのか?
作 W・シェイクスピア
翻訳 松岡和子
演出 宮藤官九郎
出演 三宅弘城、森川葵ほか
東京公演 2018年11月20日(火)〜12月16日(日)
本多劇場 地方公演あり。
M&Oplays 03-6427-9486
Column
C&C インタビュー
今月のカルチャー最前線。一押しの映画や舞台などに登場する俳優にお話を聞いています。
2018.11.18(日)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美
スタイリング=武久真理江
ヘア&メイクアップ=石川奈緒記