物語のあるホテル「ラ・マムーニア」

入り口の扉に立つベルボーイは建物に応じて長身の若い男子だが、彼ら曰く、勤続20年、30年のベテランスタッフこそホテルの顔とか。

 このホテルのゲストブックもご多分にもれず、著名人有名人で埋め尽くされている。中でも、ラ・マムーニアでの時間を慈しんだのが英国の元首相ウィンストン・チャーチルだ。

もっとも華やかなロビーラウンジのシャンデリア。

 チャーチルの存在はホテルにとっても特別で、彼の名を冠したバーがあるほど。チャーチルはとくにテラスで物思いに耽るのがお好みだったようで、テラスからの風景を描いた絵が何枚も残っている。

バー・ル・チャーチルは、英国的な重厚感とフレンチ・アフリカンの洗練さが入り混じった空間。

 ここラ・マムーニアは、数多くの映画が撮影されたホテルでもあり、数多のハリウッド俳優や女優が訪れたホテルでもある。そしてもちろんサン=ローランも、マジョレル庭園に居を構えた後も、しばしばラ・マムーニアに通っていた。

 1923年に建てられたラ・マムーニアは、現在までに5度にわたる大きなリノベーションを行っている。最後の改装を手がけたのは、鬼才ジャック・ガルシア。パリのオテル・コストやモナコ・モンテカルロのオテル・メトロポールを手がけた才能は、ここラ・マムーニアでも濃厚に発揮されている。

モザイク装飾に対比させて、ステンドグラスはアールデコを感じさせる直線スタイル。ロビーラウンジは光の魔術師であるガルシアの腕の見せ所だ。

 まばゆいまでの光と親密な闇。そして匂いやかな空間がガルシアの真骨頂だが、まさにラ・マムーニアは、そうした魅力に包まれたホテル。アラブな文化に魅了されたフランス人が思い描くエキゾティックな世界だ。

バンケットルームへと続く外廊下は、白いアラブの世界。

 ダイニングはイタリアン、フレンチそしてモロカン。さらに朝食とサンデーブランチが楽しめるプールサイドでの地中海ビュッフェ。そして、アフリカ初となるピエール・エルメのブティックもオープンした。

 まさに、食に関しても万端。

左:モロカン・レストランは本館とは別棟。広い庭を抜けて行く。
右:イタリアンはかなり水準高しで、うるさいグルメたちも満足できるはず。

2018.04.07(土)
文・撮影=大沢さつき