今月のテーマ「街歩き」
【MAN】
描かれたシュールな世界に、想像の翼がリンクする
あてどなく街を歩くときに楽しいのは、来たことはないはずの場所なのに懐かしく思うデジャビュ感覚。あるいは、思いがけない場所へ迷い込み、何かを発見したときの興奮もまた然り。
『枕魚』は、ショートボブカットの女の子が住宅地や地下街、商店街、市場などを歩く、それだけのマンガだ。「east side line」では、東横線という路線は実は4本あるという都市伝説を検証するために、女の子は東横線祐天寺駅の構内をゆるゆると探検。〈建造物等をみて、古い方古い方へ辿って〉不思議な場所へと流れつく。「地下行脚」では、新宿の地下のお店で売っている変わったピザまんを買うよう“依頼”を受けた女の子が、イルカらしき生き物をガイドに雇い、寂れた地下街を一緒に探し歩く。
女の子が辿る道筋も迷い込む街の風景も、現実と地続きの夢のようにも、時空の違う迷宮のようにも思える。そのめまいに似た感覚がただただ楽しい。
『枕魚』(全1巻) panpanya
スミの比率が極端に多く、過剰な緻密さで描き込まれた風景や看板は圧巻。女の子や、イルカ、カエルなどよく出てくるキャラクターは大抵同じ顔をしていて年齢不詳、詳細不明。22の短い作品群の合間には散文詩風の文章が差し挟まれている。それ込みで完成する独特の世界観に酔う。
白泉社 1,000円
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
2016.08.05(金)
文=三浦天紗子