言葉はまっすぐだが、一寸先が闇武田百合子の文章の魅力に迫る『精選女性随筆集 武田百合子』
武田百合子の著述がはじめて世に知られるようになったのは、1976年(昭和51年)、51歳のときのことだった。百合子は小説家・武田泰淳の妻としてすでに文壇にも知己が多かったが、それまで公の場で文章を発表したことはほとんどない。それが、この年の十月、泰淳が癌のために死去すると、夫妻が所有した富士山麓の山荘での生活ぶりを百合子がずっと日記につけていたことが明らかになり、泰淳と付き合いのあった中央公論社の編集者・塙嘉彦が通夜の席で、この日記を文芸誌「海」に掲載しないかと百合子に持ちかけたのである。
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2024.1.26