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「あらためて名作」との呼び声高い朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(NHK総合/2021年度後期)の再放送が4月29日、最終回を迎えた。

 「カムカム」のほか、土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」(同/2020年)や朝ドラ「まんぷく」(同/2018年度後期)など、NHK大阪制作の名作ドラマや、阪神・淡路大震災から30年の2025年1月17日に公開された映画『港に灯がともる』を手がけた安達もじり監督と堀之内礼二郎プロデューサーが取材に応じた。

 堀之内Pは今年1月にNHKから独立し、『港に灯がともる』を生んだ制作会社「ミナトスタジオ」の代表に。安達監督は「カムカム」再放送最終回放送日翌日の4月末日でNHKを退職し、フリーの映像監督となった。2人が新たに挑むのは「神戸から世界へ」発信する映像作品。新天地への意気込みと、もの作りに対する思いを語ってもらった。

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ふたりがNHKから独立したのは

――NHK退職の理由は何だったのでしょうか。

堀之内礼二郎プロデューサー(以下、堀之内) 「心の傷を癒すということ」制作中の2019年頃、ずっとチームワークで一緒にやってきた仲間たちと「この先何年間、どういう作品を作っていくか、何を成し遂げていくか」みたいなことを話すタイミングがありました。そこで(安達)もじりさんが「関西を映像文化の拠点にする」というビジョンを示してくれたんです。

安達もじり監督(以下、安達) でっかい夢を語っただけなんですけど(笑)。

堀之内 漠然としたイメージではあったんですが、「関西でもの作りをする」というのが、僕にはすごくしっくりきたんですよね。

安達 でもそんなこと言うて、いきなりそうなるわけじゃないので、できることから1個1個やっていこうという思いで作品を作ってきました。いつかは外に出て、という思いと、NHK大阪に残ってできることもあるなという思いもあって。そんな中で、朝ドラ「べっぴんさん」(NHK総合/2016年度後期)にはじまり、「心の傷を癒すということ」など、この10年で神戸にまつわるいくつもの作品に携わる機会をいただいて。

 さらに「心の傷を癒すということ」から繋がったご縁で、震災から30年後の神戸の人々を描いた映画『港に灯がともる』を制作することになり、一度神戸に腰を据えて、神戸を題材にした作品に集中しようと思ったんです。自分なりに総合的に考えて、このタイミングでの独立となりました。

――堀之内さんのミナトスタジオは神戸が拠点で、安達さんも神戸に引っ越されるとか。

堀之内 ミナトスタジオの「ミナト」は神戸をイメージしています。もじりさんは先日部屋が決まったんですよね。

安達 自分が「そこに住んでいる人間」として何かを見つめて描く、ということを、1回とことんやってみたくて。

――堀之内さんは一足早く、今年の1月にNHKを退職されました。

堀之内 『港に灯がともる』は、僕ともじりさんがNHKの関連会社「NHKエンタープライズ」(以下NEP)に出向中だったので制作することができたんですが、映画が完成したあと、2人ともNHK大阪に戻ることになりました。NEPは民間企業ですが、公共放送であるNHKの職員のままでは、やはり十分な宣伝活動ができない。この映画を自分たちの責任で、ちゃんと届けていかなければならないということと、次に向かう足場を早めに作るためにも、僕は一足先にNHKを辞めました。プロデューサーは場を作るのが仕事なので。

――名コンビのおふたりがNHKを去られたとなると、朝ドラファンにとっては少なからずショックなのではないかと。

安達 いや、コンビにはしないでください(笑)。

堀之内 退職のタイミングを別に示し合わせたわけではないんです。今後の制作についても、合流することもあれば別々の作品をやることもある、というスタンスで。

――プロジェクトの拠点が大阪でもなく、京都でもなく、なぜ神戸だったのでしょうか。

2025.05.03(土)
文・撮影=佐野華英