再放送中のNHK朝ドラ「カムカムエブリバディ」。大正から令和まで至る激動の100年を、3代にわたるヒロインの視点で描いた名作ドラマだ。戸籍を研究している政治学者の遠藤正敬氏は、“あるシーン”に興味を引かれたという。

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カムカム放送中のある“事件”

 筆者は戸籍制度をめぐる「日本人」のあり方を歴史的に研究している物好きであるが、テレビドラマなどは何年もまともに観ていない。

 そんな筆者がなぜ「カムカム」に興味を覚えたかというと、放送中のある“事件”を知ったからである。

 るいはトランペッターの大月錠一郎と結ばれるが、第56話(2022年1月20日放送)では錠一郎の、さらに第60話(同1月26日放送)では夫婦の戸籍謄本が画面に登場したというのである。

これの何が“事件”なのか?

 そのゆえんは、テレビや映画で戸籍が開示される場面というのはそうあるものではないからである。戸籍は「日本人」の身分証明となる公文書で、結婚、養子縁組、離婚、帰化などが記録されており、いわばプライバシーの塊だ。とりわけ人権意識の高まった昨今にあって、たとえフィクションにせよ、戸籍をみだりに衆目にさらすことは慎むべきであるという倫理観が製作者にもはたらいてしかるべきである。

 戸籍は1976年まで公開制であったため、結婚相手の履歴など、身許調査の格好の手段として利用された。そんな“取扱い注意”の戸籍がなぜ朝ドラに登場したのか?

 かくして“戸籍の虫”の触角をくすぐられた筆者は重い腰を上げ、NHKオンデマンドで「カムカム」を安子・るい編を中心に一気見した。以下、戸籍という視点を通じてこの朝ドラから浮かび上がってくるものを綴ってみる。

血のつながらない「家族」

 ざっとあらすじを紹介しよう。

 岡山で和菓子屋を営むたちばな家の長女・安子(1925年生まれ)は雉真きじま繊維社長の長男・稔と結婚し、1944年に長女るいを産む。稔が戦死すると、安子は雉真家を出て大阪で和菓子売りをしながらるいを育てるも、やがて雉真家に呼び戻される。

2025.02.22(土)
文=遠藤正敬