錠一郎はどちらなのか? 画面に映し出された彼の戸籍をみると、出生年月日は「昭和15年12月25日」とあるが、父母欄(「父」が「夫」となっているミスあり)はともに「不詳」となっている。ならば一体、誰が出生届を出したのか?

 錠一郎が戦災孤児になった経緯は劇中で語られないが、察するに空襲が原因であろう。1945年6月29日に岡山市は米軍による大規模な空襲に見舞われ、1700人を超える犠牲者が出た(安子の母と祖母も揃って亡くなる)。とはいえ、錠一郎は1940年12月生まれであれば1945年6月時点で満4歳、今の学年でいえば幼稚園・保育園の「年中」にあたる。その年齢で父母の名を知らないというのは考えにくい。あるいは両親を失ったショックで記憶喪失にという可能性もなくはないが、それならば生年月日は覚えているのがむしろ不思議である。

 そこで彼の戸籍をみると、「戸籍事項」(この戸籍がいかなる経緯で編製されたか)の欄には「昭和24年2月14日附許可の裁判により就籍」と記載されてある。「就籍」というのは、「日本人」でありながら戸籍をもたない者について戸籍を創設する手続きである。現行戸籍法(1948年施行)によれば、就籍するには家庭裁判所の審判を経なければならない。

※本記事の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(遠藤正敬「朝ドラ『カムカム家』の戸籍」)。全文では下記の内容に言及しています。
・戸籍は日本人だけのもの
・戦災孤児の戸籍
・「入籍」してこその「家族」?
・結婚は家のためなのか

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2025.02.22(土)
文=遠藤正敬