次の世代のために。演劇で“理想の共同体”を見せていく
――以前、範宙遊泳の公演を観に行ったら、坂本さんが子供を抱っこしながら受付をしていたんです。すごく鮮明にその光景が脳裏に残っているんですよ。あの光景って、下の世代の人にすごく勇気を与えると思いました。ああ、こういう働き方もできるんだって。最近は託児所が劇場に設けられる公演もあるし、親子連れで演劇を観に来ることもだんだんできるようになったじゃないですか。 だからおふたりがモデルケースになるところもあるんじゃないかと。
坂本 それはちょっと意識してた部分はあったよね?
山本 うん、あったね。
坂本 私は18歳から商業演劇の現場に入って先輩たちを見てきたんですが、制作で小さい子どもがいる人はまわりにほとんどいなかったし、話題にもならないんですよね。ちょっと後ろめたさがあるのか、当時は子どもの話はしてはいけないみたいな空気を感じました。
でも、快快(FAIFAI)とかままごととか、私が仕事させてもらったちょっと上の世代の小劇場の人たちは、積極的に劇団員の子どもを受け入れていて、みんなで育てている感じがしました。自分もそういう姿は積極的に見せていこうと思って、範宙遊泳では出演者やスタッフの子どもたちを全面的に受け入れて、みんなで可愛がる方に意識的にスタンスを変えました。
山本 大きな演劇の現場に子どもを連れていったらすごく嫌な態度を取られたという話を聞いたこともあり、大きな組織の方が子どものことに限らず、旧態依然としている部分が多く残っているように感じます。私たち現代演劇や小劇場と呼ばれる人たちの方が、実はいろいろなことをよりよくしようと頑張っているんですよ。僕自身も、演劇を通して理想的な共同体や集団のあり方を世の中にちょっと見せていくというか、開放していくというか、そういう必要があると思っていて。今後ひとつの参照例になるような組織を作っていきたいという気持ちがあります。共同体を良くしていくっていう力と、作品を良くしていくっていう力が、シンクロするような関係になるのが理想ですね。
――お互いに思ったことを素直に言うほうなんでしょうか?
山本 お互いにしか指摘できないことはちゃんと指摘していくみたいなスタンスはあります。多分ももちゃんは世間的にも規範を示す役割を求められることが増えていくと思う。プロデューサーとして、大学の講師として、先輩的な立場になっていく。でも一方で責任が重くなればなるほど、周りに苦言を呈してくれる人がいなくなる。そうなった時には、パートナーとしての責任で、これは良くないと思うよということはバッって言えるようにしています。もちろん、それは僕自身も同じこと。ももちゃんにも僕にそういう部分を感じたら注意してほしいって思っています。
坂本 お互い指摘してもらえない立場になってきたんだね、って思うよね。
劇団の制作とかプロデューサーって、他の技術的なセクションに比べて、ルールや正解はない。先行事例を見て盗むしかないところがあるし、私自身上の世代に色々教わってきました。そうやって先輩たちから現場でいろいろ学んできたものを若い世代に下ろしていきたいみたいな気持ちは結構ありますね。個人的に連絡が来て相談を受けたりする機会はあるし、ワークショップなどで割と意識的にそういう場を開こうとしています。私たちの夫婦のありかた、そして演劇制作のありかたが、これからの人たちに少しでもヒントになってくれたらうれしいですね。
範宙遊泳
『われらの血がしょうたい』
日時 2026年2月21日(土)〜3月1日(日)
会場 世田谷パブリックシアター シアタートラム
所在地 東京都世田谷区太子堂4丁目1番地1号
作・映像 山本卓卓
演出・音楽 額田大志(ヌトミック)
アートディレクション たかくらかずき
出演 井神沙恵、植田崇幸、埜本幸良、福原冠、端栞里(南極)
公演公式サイト https://www.hanchuyuei2017.com/wareranochi
山本卓卓(やまもと・すぐる)
作家・演出家・俳優。範宙遊泳代表。山梨県生まれ。幼少期から吸収した映画・文学・音楽・美術などを芸術的素養に、加速度的に倫理観が変貌する現代情報社会をビビッドに反映した劇世界を構築する。ACC2018グランティアーティストとして、19年9月〜20年2月にニューヨーク留学。『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞。
https://www.yamamotosugurunohomepage.com/
坂本もも
2009年にロロ、2011年に範宙遊泳に加入し、劇団運営と公演制作を担当。人々が集う場のデザインに関心を持ち、安心して創作に向き合える環境づくりを目指す取り組みを行っている。特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事。一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク(JPASN)理事・ハラスメント対策プロジェクトチーム長。多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科 非常勤講師。
https://www.hanchuyuei2017.com/about/momo
