NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は後半戦へ。幸せな日々から一転、第18週(2月2日~6日放送)ではトキをラシャメンと思い込んだ人々の暴走を描き、「今のSNSと同じ」と大きな反響を呼んだ。
コメディと思っていると時折、痛烈な社会派の問いかけを行う、この異色の朝ドラ。思い返してみれば、ヘブンとトキがついに「家族」になった第14週「カゾク、ナル、イイデスカ?」(1月5日~9日放送)でも、美しいラブストーリーの後、ある“問い”が投げ込まれていた。『ばけばけ』が踏み込んだ、現代にも通じる夫婦と労働のリアルとは?
朝ドラが投げかけた「好きの搾取」という問い
いつも笑顔で夫を支え、子を育て、貧しいときも耐え忍び、心身のケアをし、ときには金を工面し、あまつさえ仕事のサポートまでする……朝ドラがこれまで「妻」に背負わせできた荷の重さときたら、めまいがするほどだ。
そんな中、髙石あかり主演の異色の朝ドラ『ばけばけ』第14週「カゾク、ナル、イイデスカ?」が描いた描写が、視聴者の心を大きく揺さぶった。
後半戦に突入したこの週、ヘブン(トミー・バストウ)とトキ(髙石あかり)はついに出雲大社で永遠の愛を誓い、「雇い主と女中」から「夫婦」へと関係が変化した。錦織(吉沢亮)立会いのもと行われたこのシーンは、週初日のクライマックスとして美しく描かれた。
ところが、である。これまでの朝ドラであれば感動で盛り上がる美しいラブストーリー展開の直後に、本作は一つの"問い"を投げ込んできた。
結婚すると給金がもらえなくなるのでは?
ヘブンとの結婚を喜ぶ一方で、トキはふと気づいてしまう。これまで毎月20円(現在の価値で約70~80万円相当)という破格の給金を受け取れていたのは、ヘブンの「女中」だったからだ。夫婦になれば、その対価は発生しなくなる。幼い頃から家族のために働き続け、貧しい実家と産みの親の家族を養ってきたトキにとって、これは深刻な問題だった。
トキは母・フミ(池脇千鶴)にさりげなく聞く。「母上は父上からお金もらったことある?」と。すると、そんな夫婦どこにもないと家族に笑われ、「それが女中さんだがね」とフミに言われ、ますます結婚を言い出せなくなるトキ。その姿を見ていて、ある作品を思い出した視聴者も多いのではないだろうか。
社会現象となった『逃げ恥』との共通点
2016年に放送され、社会現象となったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)である。新垣結衣演じるみくりが、星野源演じる平匡と「契約結婚」を結び、家事労働の対価として月額19万4000円を受け取る設定だった。物語終盤、正式な結婚を提案された際にみくりが放った言葉は強烈だった。「結婚すれば給料を払わずに、私をタダで使えるから?」「それは好きの搾取です」――。
この「好きの搾取」という概念は大きな反響を呼び、家事労働の経済的価値について社会全体で議論が巻き起こった。内閣府の試算によれば、専業主婦の無償労働は年間約304万円相当とされている。愛情があるから無償で当然――そんな価値観に疑問符を投げかけたのが『逃げ恥』だった。
『ばけばけ』が描いているのは、まさに同じ問題だ。ハウスキーパーとして家事をすれば給料がつく。しかし、愛情にもとづく「妻」の労働にはなぜお金が発生しないのか。この構造的な矛盾を、明治時代の松江を舞台に、「異人の女中」と「妻」という関係性の変化を通じて描こうとしている。
