結浜の新しいチャレンジ

 2017年1月、とある日の営業終了後。スタッフがブリーディングセンターに集合する。結浜に滑り台などの遊具をプレゼントする翌日のイベントのリハーサルのためだ。アドベンチャーワールドでは、パンダにプレゼントされるほとんどの遊具や氷のディスプレイをスタッフが自分たちでつくっている。日頃から、パンダに密接に関わっているスタッフだからこそ、個体ごとの好みやスタイルを加味した特別なプレゼントをつくることができるのだろう。

 良浜にくっついて現れた結浜。歩き方もだいぶ様になっていて、新しい遊具に興味津々で、赤ちゃんパンダ(子パンダ)といえども立派になってきた爪を使って登りはじめた。パンダはとても体が柔らかいのでめったにケガをしない。木登りは得意だけれど降りるのはあまり得意ではない。そういった特性を知ってはいるものの、まだまだ小さなカラダの結浜が、自分のサイズの5倍以上の高さはありそうな遊具に初めて登っていく姿は、いろいろな意味で貴重かつ緊張するシーンだ。

 これはパンダの成長のためには必要な一歩。スタッフは、心配そうに見守りながら、同時に愛おしそうに微笑んでいる。真剣ではあるけれど、結浜の新しいチャレンジの背中を押しているような感じで和やかなムードが漂っていた。このとき、あくまでもわたしの想像ではあるけれども、最もハラハラとしていたのは母である良浜だったように思う。結浜の一歩一歩を、(遊具につかまって立つようにして)すぐ横で見守っている。少しでも結浜が危なっかしいことをしたら手を差し伸べることができるように構えている。今にも「気をつけて」っていう声が喉から出かかっているようだ。ハラハラして見ているというのは、まさにこの時の良浜のような姿のことをいうのだろうと思った。

 不思議なことだけれど、公園のジャングルジムで遊ぶ我が子を見守る親の姿とまったく同じで、今思い出しても人間の親子のようにしか見えない。写真を見返すとさらにその思いは強くなる。手足やカラダの端は全部黒いのにしっぽだけ白いパンダと人間のルックスがかぶるわけはないのに、そう見えてしまう。いよいよわたしがパンダ・メンタルへと近づけたのか、もしくは良浜の母としての愛情や存在感がルックスもろもろのディティールを凌駕してしまったのか。パンダは、その中に人間が入っているみたいだと、よくいわれるのも納得の姿だった。

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