ただひたすらにかわいい、パンダを集めたパンダグラビア本『HELLO PANDA』の著者である小澤千一朗さん。パンダを好きになったきっかけはアドベンチャーワールドにいた永浜(えいひん)がモート(掘)に落ちてスタッフが引き上げる動画を見たこと。その時の永浜の様子が拗ねているように見え、パンダにも個性があるのだと気付いてから、その魅力に一気に引き込まれ、「パンダになりたい……」という気持ちまで芽生えたほど。

 そんな小澤さんが、写真集の制作過程でも踏み込むことができなかったというのが、飼育スタッフそれぞれが持つ「パンダにまつわるエピソード」でした。アドベンチャーワールドから、良浜(らうひん)、結浜(ゆいひん)、彩浜(さいひん)、楓浜(ふうひん)が旅立ってから数カ月。パンダたちの旅立ちを、飼育スタッフの中谷さんに小澤さんが取材しました。


“パンダたちの旅立ち”飼育スタッフ中谷さんに話を聞く

 どのパンダもみんな落ち着いているようにみえた。パンダを送り出すとき、スタッフは、いろいろなことをシュミレーションして準備をする。何が起きても対応できるようにするためだ。そして、アドベンチャーワールドのスタッフがみな無口で淡々と作業しているように見えるのは、スムーズに作業を進めて、なるべくパンダがストレスを感じないように集中しているからだろう。もちろん、それぞれに胸の内ではパンダへの特別な感情はあったかもしれないけれど……。

 アドベンチャーワールドに残るパンダがいなくなる今回の旅立ちは、スタッフ全員で関西国際空港まで送っていった。離陸するまで、パンダは空港内の倉庫のような場所で待機することになっていたため、暑さ対策のためにスポット・クーラーを設置したり、1頭ごとにスタッフが数人ずつ張り付いてリンゴをあげたりしてケアをしていた。

 想定外のことが起きることなく、無事に送り出すことができたが、見送ったスタッフはパンダのための環境整備に集中していた記憶しかないという。最後の最後までプロとして、パンダをケアする。それがすべて。今回、中国の成都ジャイアントパンダ繁育研究基地に到着するまで随行したのは、飼育スタッフの中谷さんだった。中谷さんは当時のことをこう振り返る。

「こうなったらどうしよう、ああなったらどうしよう。離陸後も、とにかくパンダを無事に送り届けることに集中していました。だから、センチメンタルな気持ちになったり、パンダとの日々の余韻に浸ることなど、まったくありませんでした。ただ、中国の成都でサヨナラするとき、それもパンダの環境整備を優先したバタバタの中ではありましたが、良浜、結浜、彩浜、楓浜のそれぞれにお疲れ様という労いと感謝を伝えることができました」

 たとえ一瞬だとしても、ありがとうという中谷さんの思いは、パンダにもきっと伝わったはずだ。

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