ただひたすらにかわいいパンダを集めた写真集『HELLO PANDA』の著者である小澤千一朗さん。和歌山・アドベンチャーワールド生まれの良浜、結浜、彩浜、楓浜が中国へ旅立つことが決まった時、様々な感情が沸き起こったといいます。長きにわたりアドベンチャーワールドのパンダを追い続けた小澤さんに心の内を綴っていただくとともに、アドベンチャーワールドのこれからについても聞いていただきました。


パンダたちが旅立ったアドベンチャーワールド

 結浜、彩浜、楓浜の3姉妹とその母である良浜が、中国へと旅立つことをニュースで知ったとき、いろいろな感情が去来した。なかでも一番強かったのは、アドベンチャーワールドにパンダがいなくなってしまうという喪失感だ。いつかは旅立っていく。それは知識として十分にわかっていたはず。それに、旅立つ先の成都ジャイアントパンダ繁育研究基地では、すでにそこにいる浜家のパンダたちが、土地柄、年中食べることができるタケノコをたくさん食べて元気にしている。実際に現地でその姿を撮影もしたから、よくわかっている。どこにいようと、元気にしているなら、それが一番良い。それもよくわかっている。ただ、この喪失感はごまかせるものではなかった。

※アドベンチャーワールドのパンダの名前には「浜」が入ることから、ファンの間では浜家(はまけ)と呼ばれている

 モートを走ったり、よじ登ったり。バックヤードへ続くドアを開けようとしたり、氷結擬岩を抱くように寝ていたり。転がったり、あくびをしたり。木に登って、今度は降りてきてリンゴを食べてニンジンを探したり。新しい竹が運びこまれたら、両手に持って吟味をはじめる。飼育スタッフが名前を呼べば振り返って反応する。

 アドベンチャーワールドに行けば、会えると思っていたそんなパンダの姿が消えてしまう。そう思うと、胸が張り裂けてしまいそうだった。

 そのようなわたし個人の感情は置いといて、このニュースは世間を騒然とさせた。元々、白浜町は、温泉や世界遺産の熊野古道があり、世界に誇る生物学者の南方熊楠を輩出したことでも知られる。

 遠浅で透明度が高いビーチ白良浜は、関西圏のリゾートのメッカのひとつ。開園前から営業終了までずっとパンダの撮影に明け暮れる前の、開園直後から営業終了直前までパンダにずっと見惚れていた頃の、さらにその前。夏にアドベンチャーワールドへ行くときは、必ず白良浜で海水浴を楽しむことがセットになっていた。打ち上げ花火を見たり、名物のめはり寿司を食べたり、少し足を伸ばして、那智の滝や落合博満記念館までドライブしたりもした。

 アドベンチャーワールドの園外に出て、この町で思う存分に遊んだ体験によって、さまざまな魅力があることを知ることができた。ここにやってくる多くの人々と同じく、わたしはアドベンチャーワールドの魅力はパンダだけではないことと、白浜町の魅力はアドベンチャーワールドだけではないことを知っているつもりだ。それでもパンダがいなくなってからの1年あたりの観光客は20万人減少するという試算がされたり、それが白浜町全体で60億円以上の減収になるというニュースを見ると、陰鬱な気持ちになった。これまで発信する機会があるたびに、「白浜町にあるアドベンチャーワールドに行けば必ずパンダに会える。パンダがとても近い」と言ってきた。

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