横尾忠則、諏訪敦……巨匠たちが描く“ゴースト”は圧巻
地下の後半は見どころが多すぎて絞りきれません。まず、巨匠・横尾忠則先生の作品があります。
横尾さんといえば、ヒッピーカルチャーにどっぷり影響を受け、インドで神秘体験をし、挙げ句の果てにはUFOに乗って金星人と交信したという、この国が誇る“宇宙規模アーティスト”です。横尾さんの大名著『私と直観と宇宙人』を読めば誰もがブッ飛ぶと言われていますが、私もあの本を読んで本当に頭がおかしくなりました。そうなんです。横尾さんって、アート界のレジェンドであると同時に、オカルト界にも影響を与え続けてるんです。だからこそ、このゴースト展に横尾さんの作品がきっちり展示されているという事実だけで、もう私は軽く泣きそうになりました。
作品の素晴らしさは、もはや説明不要でしょう。でも、ゴースト展の空間で改めて見ると、やっぱり「この人は、現実の筆先で線を描きながら、もう片方の手では、死後の世界や宇宙の向こう側を触っているんだな……」としみじみ実感しました。
最も印象的だったのは、横尾さんの横に展示されていた、諏訪敦さんの踊る男性の絵です。美術に疎い私は諏訪さんの作品を存じ上げなかったのですが、一目見て心を鷲掴みにされました。展示されていた絵画作品は、写真のように精密で、技術的には完璧。しかし、動的に描かれたはずの人物にはまるで生気がなく、むしろキャンバスの中の空気そのものだけが生きているような、そんな不思議な感覚を覚えました。
人物の魂が体からはみ出して、額縁の外へ逃げ出そうとしているような強烈な“ズレ”です。今回の展示で、私が最も恐怖を覚えた作品かもしれません。解説には、“舞踏家・大野一雄による舞台を再演する川口隆夫さんをモデルに描いた油彩画で、大野から川口へと受け継がれた舞踏が、さらに諏訪の絵画を介して可視化されることで三重のミメーシスが成立する”とありました。
ミメーシス……正直、最初は悪魔か神様の名前かと思いました。たぶん、絵から無意識に宗教的な何かを感じ取ってしまったせいです。実際には「模倣」という意味だったわけですが。模倣って、考えてみるとけっこう恐ろしい。誰かの動きや魂をそっくりそのままなぞることで、自分と他者の境界まで揺らしてしまうのですから。宗教的な儀式も、模倣の連続の歴史と言えるし、人間生活そのものも、結局は誰かの模倣の上に成り立っていると言えるのかもしれません。
アートも同じです。そんな模倣の殻を破って、もっと大きなもの、遠くのものへと行こうとするのが、魂=ゴーストなのかもしれない……私も、幽体離脱をして宇宙の果てまで行ってやる! と作品を見ながら決意しました。
