「由嘉里のことが羨ましかったんだと思います」

 以前、金原さんがインタビューで話されていましたが、アサヒというキャラクターは、ご自身が歌舞伎町でホストに「お金あげるから抱きしめて」と言われた経験から生まれたそうです。営業ではない寂しさが感じられて、アサヒを演じる上での核になりました。お客さんに見せる顔、連絡ややりとりの営業で使う顔、同業者に使う顔と、たくさんの仮面を重ねていて、寂しいとは意識していないけど、でも彼の最深部には寂しさがある。地に足はついているけど、片足で立っている感じ。不安定で、何かの拍子にすぐに倒れてしまうだろう。

 具体的には、原作や取材からアサヒのテンションや動き、声などをイメージして自分の中に置きました。次にそのイメージと自分自身を繋げていきます。自分の引き出しにないものは絶対に出せないので、イメージと自分にあるものをテトリスのように組み合わせていく感じですね(笑)。

 板垣演じるアサヒには、その仕事に似合わない純粋さがにじむ。歌舞伎町に迷いこんできた“腐女子”の由嘉里(杉咲花)を気にかけ、客でも恋人でもない彼女の世話を焼き、ついには行動を共にする。

 アサヒはホストとして「不特定多数に愛されたい」とか、お客さんに「ナンバーワンの俺が好きなんだろ」と言ったりする。そんな自分と違って素直に突っ走る由嘉里を見て、こいつと一緒にいたら自分も変われるのかもしれない、と。アサヒはきっと、由嘉里のことが羨ましかったんだと思います。

榎本麻美=写真
稲垣友斗(CEKAI)=スタイリング
KATO(TRON)=ヘアメイク

衣装協力:ジャケット、パンツ JW ANDERSON/ニット IRENISA/
ニット(ハイネック)JOHN SMEDLEY

いたがき・りひと 2002年生まれ。12年に俳優デビュー。24年公開の映画『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』で第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。25年放送「秘密~THE TOP SECRET~」でゴールデン帯連続ドラマ初主演。9月より放送のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」への出演を控えている。近作の映画に『ババンババンバンバンパイア』、『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』(12月公開)など。

INTRODUCTION

金原ひとみの同名小説(第35回柴田錬三郎賞受賞作)を映画化。新宿・歌舞伎町を舞台に、擬人化焼肉漫画をこよなく愛するも自分のことは好きになれない27歳の主人公の、新たな世界との出会いを描く。松居大悟監督は、主要な撮影を本作の舞台である歌舞伎町で敢行した。主人公の“腐女子”由嘉里を演じるのは、杉咲花。由嘉里が出会う美しいキャバ嬢・ライには南琴奈がオーディションで抜擢された。既婚者であるホスト・アサヒ役を映画・テレビの出演が続く板垣李光人が演じる。

 

STORY

銀行員として働きながら漫画の“推し活”に励む由嘉里(杉咲花)は、27歳になり不安と焦りを感じていた。婚活を始めるも惨敗、歌舞伎町で酔いつぶれたところをキャバ嬢のライ(南琴奈)に助けられる。ライのマンションで目覚めた由嘉里は、希死念慮を抱えたライに惹かれ、そのまま一緒に住むことになった。夜の歌舞伎町という新たな世界で、由嘉里は№1ホスト・アサヒ(板垣李光人)や、毒舌な作家・ユキ(蒼井優)に出会う。ある日、ライから元恋人の話を聞いた由嘉里は、その死への願望を抑えるべくある計画を発案し、アサヒに持ちかけるのだが――。

 

STAFF & CAST

監督:松居大悟/原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫)/出演:杉咲花、南琴奈、板垣李光人、蒼井優、渋川清彦、筒井真理子/音楽:クリープハイプ/2025年/日本/126分

©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会