『火喰鳥を、喰う』に出演するにあたっての大きなポイントの1つは、「受けの芝居」への挑戦でした。役者という職業が好きであるほど、投げる方が楽しいんですね。でも、投げるばかりで受けが下手ではいけない。僕の今の若さやキャリア、技術の未熟さを考えると、どちらか一方に特化していくようにはなりたくないんです。
役者バカ――インタビューの最中、失礼ながらそんな言葉が浮かんできた。そう思えてならないほど、水上恒司は演技について話すのが楽しそうだ。
「受けの芝居」――相手役の演技を受けて、それに応じた演技をその場で構築して表現していくこと――に挑戦したという水上が、『火喰鳥を、喰う』で演じるのは、主人公・久喜雄司。妻・夕里子(山下美月)と信州で穏やかに暮らしていたが、太平洋戦争で戦死した先祖・久喜貞市の日記が届いたことから、周囲に不可解な出来事が起こり始める。そこに超常現象専門家・北斗総一郎(宮舘涼太)がやってきて――。
雄司は妻や北斗とは違って、「超常現象なんてあるわけない」と考えている。だから彼が不可解な出来事に対して示すリアクションのさじ加減が大事。目の前で起きている現象に対して彼はどう反応するか。どれくらい否定的なのか、どれくらい受け入れているのか。最初は100%否定的なんですが、次第に「あるかもしれない」という気持ちが濃くなっていく、そのグラデーションを表現しなければいけなかった。

共演者とは演技についてどんな話を?
僕は、人からの意見ですぐに自分を変えられる器用なタイプではないので、役者同士で演技について話すことはしません。撮影前の本読みで、「僕はこう思っています」と山下さんや宮舘さんにお伝えしましたが、現場に入ったら何も言いません。野球に例えると、バッターが「次はどんな球が来るかな」と待つように、相手を感じるのが面白いので。

山下さんは、ご自身の演技プランをしっかり持っている方です。現場ではあえて話さず、ひたすら山下さんが演じる夕里子を感じて、僕が演じる雄司を感じてもらう。言葉をポツポツと交わすような、地味だけど文学的な匂いのする夫婦を僕は作りたいと思っていました。
宮舘さんは、本読みのすぐ後に、僕に「どう思う?」と素直に聞いてくださった。キャリアも年齢も上の方がそう言えるというのは、なかなかできることではない。この人と一緒に作品を作るのが楽しみだな、とその瞬間に思えました。
2025.10.19(日)
文=「週刊文春CINEMA」編集部