◆ さぼうる

心地よい賑わいに包まれた都会の隠れ家

 本の町・神保町の顔ともいえる喫茶店。カレーやナポリタンが有名だが、一店で赤、ブルー、グリーン、イエローの4色を揃えたクリームソーダも負けていない。かき氷を思わせる並びは夏の季節感やお祭り感にも通じる。

左:入口では大きなトーテムポールがお出迎え。
右:1955年からこの地に店を構える鈴木さんの目が隅々まで行き届く店内。常連客からのお土産も多く飾られ、ここで築かれた関係の温かさがうかがえる。

 味だけでなくその日の気分や洋服に合わせて好きな色を選べるのはこの店だからこそのお楽しみ。そこには店主の鈴木文雄さんの「喫茶店には遊びがないとね。夢を売っているんだから」という哲学が息づいている。ポイントは氷。じっくり48時間かけて透明に凍らせ、ソーダの色を引き立てる。

 ログハウスのような店内は常に人で賑わっているが、席に着くと周りの目を気にせず自分の世界に没頭できる心地よさが。その場に漂う空気はおのずと本に愛されている。

● クリームソーダを飲みながら読みたい本

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』

路面電車が走る町を舞台に描かれる群像小説。スープのほかサンドイッチ、ラーメンなど料理の描写がどれも丁寧で味わい深い。

吉田篤弘 中公文庫 629円
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nanba's ここがいい!
いつも変わらず出迎えてくれるマスターにほっとします。現実にありそうな、でも非日常の場所で淡々と過ぎていく物語を、屋根裏部屋のようにも思えるこのお店の、区切られた自分だけの空間で読みたいと思いました。

さぼうる
所在地 東京都千代田区神田神保町1-11
電話番号 03-3291-8404
営業時間 9:00~23:00(L.O. 22:30)
定休日 日、祝日は不定休
クリームソーダ 各580円

● 今回お話を伺ったのは・・・

難波里奈(なんばりな)さん
東京喫茶店研究所二代目所長。純喫茶をこよなく愛し日本全国を訪ね歩く『純喫茶コレクション』(PARCO出版)の著者。二冊目となるさらにディープな集大成『純喫茶へ、1000軒』(アスペクト)も発売中。

クリームソーダと楽しむ読書
選りすぐりの東京喫茶店アドレス

2015.08.20(木)
text=Chisato Nasu
photographs=Tamon Matsuzono

CREA 2015年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

本とおでかけ。

CREA 2015年9月号

街へ公園へ、空想の世界へ
本とおでかけ。

定価780円