【BLは乙女ゲー展開とハイブリッドできる。】
ざっくり分けると、 BLマンガの読者は主人公カップルを見守る目線で読む客観型です。そして少女マンガの読者には「ヒロイン＝私」がモテモテになってマンガ世界の中心で恋愛を叫びたいのよ、という主観型が多い。一見相容れない2つの感性ですが、客観・主観の両面で作品を読めたら人生の楽しさ倍増です。自分を主人公に同化して読む主観型読者は、意中の男子とライバル男子が自分を取り合うという少女マンガの鉄板構造を好みます。この図式を発展させたのが、タイプ違いの美男子をよりどりみどりに配して攻略する、昨今流行のいわゆる乙女ゲームと呼ばれるものです。
私を好きにならないで!? 乙女ゲームファンも必読です。
主観型読者に客観型のおもしろさを知っていただくのにうってつけの作品が、ぢゅん子さんの『私がモテてどうすんだ』です。本作はBLではなく、腐女子をヒロインに据えた乙女ゲーム構造を持つラブコメ少女マンガ。愛するアニメキャラが死んだショックで痩せてきれいになってしまった腐女子・花依。望んでないのになぜか、スポーツ系とチャラ男系の同級生や、かわいい系下級生、おっとり天然な先輩、なんと男装コスプレ美少女まで花依に興味津々。恋の鞘当ての開幕です。乙女ゲームとBLマンガをハイブリッドした無駄に豪華なキャラ布陣が新鮮。非オタク男子と腐女子のすれ違いをラブコメに昇華した「あるあるネタ」の鮮度も高級寿司屋並みで、主観型読者、客観型読者の双方が満腹になる奇跡の味わいバランス。人気BL作家として腕を磨いた作者が、満を持して放つ長篇連載は、美男子ツーショットの萌え場面も抜かりなしの画力。貴女がヨマずにどうすんだ！
『私がモテてどうすんだ』(既刊5巻) ぢゅん子
ヒロインは腐女子。かっこいい男子がいちゃいちゃ仲いいのを鑑賞するのが大好き。なのに最近、自分が超モテて困る！ タイプ違いの5人から好意を持たれて右往左往。あなたならどうする？ 無駄に贅沢なモテを笑いに変える作者の手腕に惚れぼれ。
講談社 各429円
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。
Column
BLマンガ基礎講座
BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない！
2015.05.03(日)
文＝福田里香
CREA 2015年5月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
この記事の掲載号
CREA 2015年5月号
センスのいい人のショッピングマニュアル
10年、ずっと好きなもの
定価780円
