その人形が“アカさん”と呼ばれる理由
「口紅……付いてるんだね」
人形の唇に塗られた真っ赤な口紅。白く生気のない人形に無理やり生気を宿らせようとしているかのような雰囲気が、Fさんの心をざわつかせました。
「あー、だから“アカちゃん”って呼ばれているのか」
「え?」
Oさんが突然独り言のようにそう呟くと、部屋の中には気まずい沈黙が流れました。
「……あの、ありがとう。もう見たから閉めていいよ!」
「あ、そっすか」
Oさんはそっと扉を閉めました。
その後、2人は行きしなに買ってきたお菓子やジュースなどを開けながら、しばらく話し込みました。
不気味な人形を見にきたにも関わらず、意外にも会話は明るく盛り上がり、気がつけば夜のいい時間になっていたそうです。
小腹が空いてしまったFさんは、帰る前に万年金欠の後輩のために坂の下のコンビニで夕食を奢ってやることにしました。
Oさんにコンビニの場所を改めて聞いた後、Fさんは部屋の外に出ました。
すっかり宵闇に飲まれていたアパート周辺からはジリジリという蛍光灯の音以外何も聞こえません。
最初は正気を疑っていたけど、意外と住みやすい場所なのかも――そんな風に部屋の方を振り返ったとき、玄関脇の洗濯機の奥に何か妙な物影があることに気がつきました。
「これって……」
それは、壁から張り出した、大人の膝丈くらいある長方形の増築部分で、あのアカちゃん人形が収められていた木箱と同じ位置にありました。
中から見たときには“妙に奥行きがあるな”としか思っていなかったクローゼット。
「なんでこんなスペースを付け足してんだ……?」
急に寒気がしたFさんは足早にコンビニに向かいました。
