思わず言葉を詰まらせた“壁の文字”
「これさ、もしかして、落書きするほど長くここにいられないから――」
Tさんが急に言葉を詰まらせて足を止めました。
「なに?」
「あれ……」
Tさんが照らしたのは、新郎新婦が座る壇上席の上。
普段なら家族との思い出動画などが映し出されるスクリーンがある場所。
そこに刃物で切りつけたように、大きな文字が彫られていたのです。
かわいそうな
かわいそうな
なかむら あけみ
見てはいけないものを見た気がしたそうです。
悲鳴をあげようにも喉が詰まって声が出ません。かろうじて横を振り向くと、女性陣も青ざめた表情で固まっていました。
唾を飲み込んで無理やり喉をこじ開けたIさんは、掠れた声で目の前に佇むTさんの肩をつかんで言いました。
「も、もう帰るぞ!」
「……あ、ああ、そうだな」
固まっていたTさんは我に返ったようにジーンズのポケットに手を入れると、折りたたみ式の携帯電話を開いて時間を確認しようとしたそうです。
ゴトン。
