夢を叶え、恋に落ちた相手は…
24歳の頃、地元の新聞社シンシナティ・エンクワイアラー社にイギリスの詩人作品への批評を持ち込んだところ、主筆であるジョン・コカリルに大変評価されました。正社員に採用され、記者として働けるようになります。 ついに機会を得ました。
移民として渡った米国で、物書きへの階段を上がれた。喜びようはいかばかりだったか。
ここでつかんだチャンスを、八雲は決して手放しませんでした。身一つで渡った米国で悪路をくぐり抜け、なお前へ前へと進んでゆく。僕のような普通の人ならへこたれてしまい、人生そのものを投げだしてしまったに違いありません。
そして恋に落ちます。マティ・フォリーという、白人農園主と黒人奴隷の間に生まれた人です。時に物思いにしずんだ表情を浮かべていました。この人の語る身の上話に、幼い頃から孤独感にさいなまれてきた八雲は感銘を受けたことでしょう。
それに彼女が語る幽霊話が絶品でした。並外れた記憶力があり、描写力は詩人のようでした。話をする時の、低く静かな声の力に圧倒されました。妖精や幽霊といった、目に見えない存在を尊ぶ八雲です。
ついに気持ちが抑えられなくなり、結婚を申し込みました。
白人と有色人種の結婚が禁じられていた時代
当時のオハイオ州の法律は白人と有色人種の結婚を禁じていました。そんな時代に黒人の血を引くマティと結ばれたら、違法行為で罰せられるかもしれません。
どう考えても、そんな差別はおかしい。八雲の思いは揺るがず、マティと彼女の連れ子とともに黒人の牧師のもとで結婚式を挙げました。
しかし、この結婚を理由にシンシナティ・エンクワイアラー社を解雇されます。ライバルの新聞社で働けるようにはなりましたが、3年ほどで結婚生活は破綻してしまいます。
米国に渡って8年。粘り強く、機会を探り、つかみ、だんだんと順風を感じられた頃でした。それだけに、この離婚は痛かった。世間の目の厳しさが身に染みたことでしょう。
この時、そもそも胸の内に秘めていた白人中心主義への反発が燃え上がることになるのです。
〈「第一印象はよくなかった」のに惹かれていった…『ばけばけ』のモデルになった小泉八雲と妻・セツの“本当のなれそめ”〉へ続く











