ただひたすらにかわいいパンダを集めたパンダグラビア本『HELLO PANDA』の著者である小澤千一朗さんが、彩浜、楓浜、そして10頭の子どもを産み育てた母の良浜について、飼育スタッフの中谷さんとともに振り返ります。
“旅立ったパンダたち”彩浜と楓浜、そして良浜
2018年8月14日、わずか75グラムという体重で生まれた彩浜。生後間もない頃の危機的状況を脱した後は、スクスクと成長し、ファンからは社長というニックネームで呼ばれ愛されている。社長と呼びたくなるくらい佇まいや醸し出す雰囲気が(ワガママ?)堂々としているからだろう。そんな彩浜の撮影については、とても印象深いことがある。それは誕生直後の予断を許さない状況下で、初めて自分の力でミルクを飲んだという連絡をいただいたときのこと。
「光が見えました」という言葉で締めくられていた。結浜の妹(弟かも)を主人公にした新しい本をつくりたいというわたしの企画について、アドベンチャーワールドに協議してもらっていたタイミングだった。だから、その是非のやり取りを含めて、たまたまそういうメールをもらうことができたのだけれど、その光は、小さなパンダの生命の希望であると同時に、懸命に手をつくすスタッフの希望でもあった。
さらには母である良浜の我が子を思う希望の光を意味していたのだと思う。それから、さらに数日後。体温が下がらないよう、良浜が彩浜を抱きかかえ、彩浜は懸命に母乳を飲もうと母のお腹をよじのぼっていくようになった。母と子の生命を育む光景。それを見守るアドベンチャーワールドと成都ジャイアントパンダ繁育研究基地のそれぞれのスタッフ。その現場を垣間見て、すべての生きものに通じることではあるけれど、わたしはとても感動した。そして、この感動を伝えるには、テキストを書いて、写真を残すのはもちろんだけれども、なによりも自分自身がより良く変化することが大切だと思った。もっとパンダの魅力を記録すること。もっとパンダからギフトされたものを理解すること。彩浜の誕生後、そういうことをさらに意識するようになった。
飼育スタッフの中谷さんにその当時を振り返ってもらった。
「ジャイアントパンダは生後1カ月間の死亡率が高いので、実は、この時も、心底安心するということはなかった気がします。半年経っても、その心境は同じです。現在は、成都のオフィシャル映像を見ても、しっかりと竹を食べているし、彩浜の後ろに見えている部屋にも常に竹がたくさん散らばっているのを確認できます。それは、もうすでにワガママぶりを発揮する余裕が出てきたのかなと思えるので、少し安心しています」
思えば、彩浜の育児に真っ最中だった良浜はヘトヘトに疲れていた。それにも関わらず気が張り巡らされていて、少しでも彩浜と離れると我が子を探すようにして落ち着きがないように見えた。強い母の姿がそこにはあった。良浜がこちらに向かって威嚇したわけでもないのに、その存在感に気圧されてしまったのを覚えている。同時に、最前線でパンダと常にともにあるスタッフの覚悟や愛情を改めて思い知った瞬間でもある。
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- 文=小澤千一朗
写真提供=アドベンチャーワールド - keyword
