演技という仕事への愛

 ストイックに演技について語る水上に、あらためて「演技という仕事は好きですか?」と尋ねてみると、

 好きです。好きですけど、ただ「好き」というだけではいけなくなってきています。責任が伴いますし、やりたくないことをやらなければいけない時もある。でも、好きなことで苦しんだり悩んだりできること自体、幸せなことだと捉えています。

 以前、大ベテランのカメラマンの方に「役者は芝居をしていても、素が出る。その素の瞬間がいかに豊かで魅力的かが大事だ」と言われたことがあります。技術も大事ですが、人の心を動かすのは技術ではなく、その人の「素」の部分だと思うんです。だから、自分がどんな人生を歩んできたのか、いかに誠実に生きようとしているかが、いつも試されている。

 もちろん現場に行く前には、めちゃくちゃ準備しますよ。自分のセリフを録音して、噛まずに言えるか、言葉が落ちていないか、トーンは適切かなどを確認します。でも、それは所詮ひとりで家でやっていること。あくまで現場で自由に生きるための準備でしかありません。現場に行って、相手を、空間を、その場の空気を感じながら演じる。それがこの仕事のいちばんの魅力ですね。

平松市聖=写真
TAKAFUMI KAWASAKI=スタイリング
Kohey(HAKU)=ヘアメイク

みずかみ・こうし 1999年福岡県生まれ。2018年俳優デビュー。『死刑にいたる病』(22年)で映画初主演(阿部サダヲとW主演)、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23年)で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21年)、連続テレビ小説「ブギウギ」(23年)などテレビでも活躍。近作に『九龍ジェネリックロマンス』(25年)がある。

INTRODUCTION

令和初の横溝正史ミステリ&ホラー大賞で大賞を受賞した同名小説を映画化。ある一家の先祖の死を巡る不可解なミステリーとして始まり、次第に謎と怪異が交錯していく。監督を『シャイロックの子供たち』(23年)などの本木克英が務め、『死刑にいたる病』(22年)、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23年)などを経て本作が単独初主演作となる水上恒司が主人公・久喜雄司を演じる。その妻・夕里子役に乃木坂46の元メンバー山下美月。Snow Manの宮舘涼太がグループから離れ単独で映画初出演し、謎の超常現象専門家・北斗総一郎を演じているのも話題だ。

 

STORY

信州で暮らす久喜雄司(水上恒司)と妻・夕里子(山下美月)は、ある日先祖代々の墓石から、太平洋戦争で戦死した大伯父(祖父の兄)・貞市の名が削られているのを知る。同じころ地元紙の記者が貞市が戦争中に書いたという日記をもって訪ねてきた。日記を前にした夕里子の弟・亮は、何かに憑かれたように突然、そこに「ヒクイドリヲ クウ ビミナリ」と書き込む。雄司は夕里子の知人で超常現象専門家の北斗総一郎(宮舘涼太)に調査を依頼する――。

 

STAFF & CAST

監督:本木克英/出演:水上恒司、山下美月、宮舘涼太(Snow Man)/2025年/日本/108分/原作:原浩「火喰鳥を、喰う」(角川ホラー文庫/KADOKAWA 刊)/配給:KADOKAWA、ギャガ/©2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会

2025.10.19(日)
文=「週刊文春CINEMA」編集部