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役柄との共通点とは

――なるほど。いわば相思相愛ですね。ではチョン・ジヒョンさんは、このムンジュという元国連大使で、暗殺された夫に代わって大統領候補にまでなる、芯の強い女性を演じる上で、何を1番大切にされましたか?

チョン・ジヒョン まず言えるのは、ムンジュが置かれたその状況が、彼女を強くしたんじゃないかなと思うんです。彼女がそもそも、こんな大胆な、また度胸のある人物だったかというと、そこまでではなかったように思います。彼女本人、そして周りの人たちも含めて、これは思いもよらなかったことだったでしょう。ムンジュが置かれた状況に本当に最善を尽くして、それが、彼女を大胆にしてみせたんじゃないか。『北極星』の中では、そういう風に描かれたんじゃないかなと思うんですね。

 やっぱり物語全体を引っ張っていく人物ですので、キャラクターは魅力がないといけない。ですから、私は彼女の置かれた状況に忠実に、ムンジュという人物を表現しようとしました。

――これぞできる女というか、完璧に見えるムンジュに、何か弱点はあるんでしょうか?

チョン・ジヒョン 彼女の弱点と言えば……、カン・ドンウォンさんが演じるサンホですね。サンホがムンジュの弱みなんじゃないかなと思います。彼と向き合うことによって、ムンジュは自分という人間についても、わかってくるんじゃないかなと思うんですね。

 色々と大変な状況の中で、彼に疑念を抱いたり、それを否定したり、また逃げようとするんですけれど、本当にやむにやまれぬ、どうにもならない関係性が二人の間に生まれるんです。その関係性の変化というのも、この『北極星』という作品の見どころではないかなと思います。サンホは彼女にとって弱点であり、同時に強みである。そういう存在なのではないかと思っています。

――そんなムンジュの弱点となっていくサンホという人物は、国籍も不明など謎が多いので、カン・ドンウォンさんは、キャラクターが掴みにくかったのではないかと思うんですが、どんなふうにサンホという人物を組み立てていったんでしょうか?

カン・ドンウォン ドラマの前半では、このサンホというキャラクターが、結構ミステリアスに映るかもしれません。ですが、実は彼自身はかなり確かな世界を持っている人物だと思います。どこにも定着できずに転々として、また一人ぼっちで、ちょっと孤独に見えがちなキャラクターですので、前半はそういう雰囲気というかイメージに忠実に演じようとしました。

 でもサンホはムンジュという人物と出会い、彼女を守るために、自分の全てを懸けることにする。ある意味、彼は彼女と出会って、自分の本当のアイデンティティが生まれた。そういうキャラクターなんじゃないかなと思っています。

――そんなサンホとドンウォンさん自身に、似たところはありますか?

カン・ドンウォン (日本語で)料理です。(ケラケラと笑いながら)料理を作るのが上手なところ、ですかね。(「北極星」の中でサンホが料理をするシーンがあり)僕もサンホと同じく料理をするのが好きなので。

 ただ、僕がサンホのように情熱的な人間かというと、ちょっと疑問なんですよね。以前はそういう情熱的な部分もあったかもしれないんですけれども(笑)。感情が豊かというか、パッションがあるというか、彼は熱愛家。ああいうところは僕とは違うかな、と思いますね。ただ、サンホが持つ優しさは、自分の中にもあるんじゃないかなと思います。

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カン・ドンウォン

1981年、韓国釜山広域市生まれ。2003年にMBCドラマ『威風堂々な彼女』で俳優デビュー。04年に映画『オオカミの誘惑』で初主演を飾り大ブレイク。22年には是枝裕和監督の映画『ベイビー・ブローカー』にも出演。「北極星」では、約21年ぶりのドラマ出演となり、プロデューサーの一人としても名を連ねている。

チョン・ジヒョン

1981年、韓国ソウル特別市生まれ。98年にドラマ『私の心を奪って』で俳優デビュー。99年に映画『ホワイト・バレンタイン』で第35回百想芸術大賞新人賞を受賞。2001年に公開された映画『猟奇的な彼女』は社会現象となり、日本でも03年に公開されるとヒット作に。以降、映画とドラマの両方で活躍中。

「北極星」
ディズニープラス・スターで独占配信中

南北統一を目標に掲げた大統領候補チャン・ジュニク(パク・へジュン)が教会で射殺された。妻で国連大使のソ・ムンジュ(チョン・ジヒョン)は、夫の遺志を継ぎ、自ら大統領候補として出馬を決意する。夫の死の真相を追求し始めた彼女も何者かに命を狙われるが、その危機を救ったのは脱北者のペク・サンホ(カン・ドンウォン)だった。ムンジュは彼をボディガードとして雇い、いつしか二人は惹かれ合うが、世界的な脅威に翻弄されていく――。脚本は、映画『別れる決心』やドラマ「シスターズ」の脚本家チョン・ソギョン。演出は「愛の不時着」「涙の女王」のキム・ヒウォン。

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2025.09.23(火)
文=石津文子