日本社会における男性性とスキンケアの関係について、取材も交えて掘り下げた『父と息子のスキンケア』(ハヤカワ新書)が話題を呼んでいる。同書では早川書房の男性社員3人による「スキンケア実証実験」を敢行。著者の高殿円さんと、実験に参加した担当編集の一ノ瀬翔太さん(ハヤカワ新書編集長)にお話を伺った。(前後篇の後篇/初めから読む)
男性編集者3人による「スキンケア実証実験」を実施
――本書で面白かった点のひとつが、一ノ瀬さんを含む早川書房の男性社員3人による「スキンケア実証実験」でした。普段一切スキンケアをしていない方たちが1カ月にわたって洗顔フォーム+化粧水+シートパックを続け、そのレポートが掲載されています。これは高殿さんから提案されたんでしょうか?
高殿 はい。いろいろ話を聞いて考える中で、やっぱり男性は仕事が絡まないとやらないと思ったんです。それに、この本で取材した社会学者の多賀太先生が「変わる勇気を持てないおじさんたちに対しては、職場からアプローチするのが効果的」ということをおっしゃっていたので、これはひとつのアンサーになるかなと思いました。
――せっかくですので、同席されている一ノ瀬さんにも話をうかがいます。スキンケアを続けてみて、どんな変化がありましたか?
一ノ瀬 私は本当に何もやってこなかった人間だったので、まず「肌に潤いを保つ」というのがどういうことなのか、まったく理解していなかったんです。それがようやく「こういう感じか」とわかりました。妻が化粧品会社に勤めているので化粧水をプレゼントされたこともあったんですが、もらったものを箱に入れたままにしていて……。
高殿 罪深いですねぇ。
一ノ瀬 はい(苦笑)。肌が乾燥するタイプなので、それが改善した実感はありましたね。やり始めてしばらく経った頃に鏡を見たときに「お、なんか肌が輝いているな、これは楽しいな」と思ったりしました。

――乾燥気味だったにもかかわらず、なぜこれまで何もスキンケアをしてこなかったんでしょう。
一ノ瀬 乾燥をどうにかできるものと捉えてなかったです。あとは、スキンケアは自分と無縁のものだと思っていて、「自分なんかがやってもな」という感じはあったと思います。
――「男性でそういうことをやるのは容姿が大事な仕事の人ぐらいだろう」というような。
一ノ瀬 そうですね。「そこで勝負してないんだけど……」みたいな謎の考えがあったと思います。
――実験終了後、男性社員同士でスキンケアの話をするような場面は増えました?
一ノ瀬 それは正直そんなに多くないですね。女性社員とスキンケアの話題になることのほうが多いです。
高殿 我々女性は、「スキンケア始めました」という男性に対してシンプルに好感度が上がるんですよね。仮に仕事ができない人でも「最近、化粧水使ってみてるんです」と言われたら「仕事できないくせにチャラチャラしやがって」とは絶対思わない。そこは多分、男性が誤解しているところです。
2025.08.28(木)
文=斎藤 岬
漫画=いまがわ