この記事の連載

 日本社会における男性性とスキンケアの関係について、取材も交えて掘り下げた『父と息子のスキンケア』(ハヤカワ新書)が話題を呼んでいる。執筆のきっかけは、「夫が突然スキンケアに目覚めたこと」と語る著者の高殿円さんに、同書に込めた思いについて伺った。(前後篇の前篇/後篇を読む)


アラフィフの夫が、突然スキンケアに目覚めた

――まずは本書を執筆することになった経緯をお聞かせください

高殿 ひとつには、息子が大きくなってきていわゆる思春期ニキビが出始めた頃の出来事があって。あるとき、父親、つまりうちのパートナーと一緒に私の高い化粧水をコソコソ使っていることが判明したんですよ。最初は「こぼさないで!」って激怒しつつも(笑)、「そんな年頃なのか」と不思議な驚きがありました。

 それと同時に、夫に対しても複雑な思いが湧きました。結婚して20年経ち、もはやパートナーに何かを要求することも互いになくて、今さら何を言っても別に変わらないだろうと思っていたんです。多分、アラフィフぐらいの夫婦ってみんなそんな感じだと思う。

 でもその夫が、息子と一緒に化粧水をつけてキャイキャイ楽しそうにやっている。「20年遅いぞ」と思いつつ、「うちのおじさんでも変わるんだったら、この切り口でいけば世の中のおじさんが変われる可能性があるのでは?」という考えが浮かんだんです。

――以前から「おじさんが変わったらいいのに」という問題意識をお持ちだったんですね。

高殿 最近はSNSによって各所で分断が起こっていますよね。日々そうした状況を目にして「これは息苦しいな……」と思っていたときに、私ぐらいの年齢の人間だからこそ言えることがあるんじゃないかと気づきました。

 私は来年50歳になる節目の年。30代は子育てや自分のキャリアですごく忙しいし、40代になると管理職になって今までとは違う仕事が入ってきてしんどいじゃないですか。でも私はもうそこを抜けた年齢で、子育てももうすぐ卒業です。今まで「いかんなぁ」と思っていたことに対して、社会の中で何かやらなきゃいけないターンが回ってきたんじゃないかと思いました。

 実は、50歳までの個人的なスローガンとして「女性と弱者のための資産運用の啓蒙」を掲げているんです。それで株のことをツイートしたり不動産関係の本も書いたりして。

――『35歳、働き女子よ城を持て!』(KADOKAWA)や、noteの「2025年に東京で築5年以内の40平米マンションを3000万代で買う方法」など、面白く拝読しています。

高殿 いろいろやってみて、その層に関しては「ちょっとは啓蒙活動できたかな」って手応えがありました。でも、その網の中でとりこぼされている男性たちがいるのはわかっていて。いわゆる弱者男性や、そこまではいかなくとも頑なに変化を拒むおじさんたちですね。

 その人たちに向けて何ができるか考えていたときに、うちの洗面所での小さな“エウレカ”があった。そこで「男性にケアを教えるいちばん低いハードルといったら、スキンケアしかないのでは!?」と思ったのが、この本を書くきっかけでした。

2025.08.28(木)
文=斎藤 岬
漫画=いまがわ