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担当編集(32歳男性)を見て「このままじゃ死ぬぞ」と

――本書では、ご家庭での出来事をきっかけにスキンケアの話から始まって、社会における男性への同調圧力や氷河期世代の苦悶、社会構造の問題へと展開されていくところが読み応えがありました。

高殿 とにかく間口を広くすることは意識していました。女性に比べて、男性は変化することへの抵抗がすごく強いと思います。「軸がブレるのは男らしくない」って外圧にさらされ続けてきているから。だから、あんまり恥をかかせない方法で何かないかなと考えていたんですよ。

 これも年齢によるところが大きくて、30代の私だったら「そこまでこっちが考えてあげる必要はない」と思ってました。「知るかボケ、勝手に変われ」って。

――そう思っている女性は少なくないと思います。

高殿 そうですよね。でもおばさんになってきて「みんなこの社会という同じ船に乗っているんだから、取り残される人をひとりでも少なくしようよ」と思うようになりました。私も年老いましたね(笑)。

 それで「どこに持ち込もうかな」と考えていたときに、たまたま早川書房に行ったら一ノ瀬さん(本書担当編集。ハヤカワ新書編集長)が風邪を引いてめちゃめちゃ具合悪そうにしてたんですよ。しかも「企画がない……」と突っ伏していたので、可哀想になってこの企画の話をしました。

――ケアが必要な状態だったんですね(笑)。

高殿 言っちゃなんですけど、東大卒で32歳、今バリバリ仕事している歳の人間にしては顔がくたびれすぎていたんですよ。「今がいちばん仕事が楽しい時期では!? なんでこんなくたびれてるの!?」ってびっくりして。

 それで思い出したのが、自分と同世代の男性と会っても「え、こんなに年老いてる!?」って思うときが結構あるんですよね。女性はルッキズムにさらされてきたので、自分のキャリアと同じぐらい顔のシワやたるみを気にしてきた。でも男性はそこに対する危機感がありません。

 それはやっぱり、男性は自分を顧みず仕事に全振りすることが正解であり、「仕事ができなければ未熟だ」という意識があるからだと思います。一ノ瀬さんの突っ伏してる姿はその象徴だな、と。これがあと20年続いたら本当に死ぬぞ! って思いましたね。この驚きも、今回こうして自分が今まで触れてこなかった領域にチャレンジする後押しになりました。

2025.08.28(木)
文=斎藤 岬
漫画=いまがわ