下井総料理長の考える「昭和メニューの再現」
「昭和メニューの再現についてはわたしたちシェフの間でも数年前から話題にしていたことでした。というのも昭和100年はもちろんきっかけとしては大きいのですが、私たちが教えを頂いた先輩シェフたちの味をどのように継承していくかが、課題のひとつだったからです」
プリンスホテル下井和彦総料理長はそう語る。1985年の入社から40年。プリンスホテルの“味の指揮者”である。

「食事の終わった皿が真っ白だと、ああ美味しくお召し上がりいただけたと思いますし、逆であれば反省します。その繰り返しでやってきました。しかし『もう一度、骨付きローストビーフが食べたいね』『30年前に挙式した時のメニューを再現できますか』といったリクエストを頂きますと、プリンスホテルの歴史の長さと、いま再び往時のメニューを提供することの特別な意味を感じます」
昭和には昭和の、平成や令和には現在進行形のプリンスホテルの味があるが、それはクラシックに根差すものだという。

「料理はまったくのゼロから生まれるものではなく、歴史の中からその時々で再構築されるものでしょう。つまり新しい料理はクラシックから生まれるということです。振り返りますと、若い頃の私のビーフシチューは言わば『力づくでやっつけてやろう!』と例えられるようなガッツのある内容だったと思いますし、それが経験を経て素材を活かす、最高の状態を引き出すような作り方になってきました。プリンスホテルの料理は歴史に根差すクラシックでありながら、いま一番おいしいものを提供するために変わり続けているわけです」
2025.05.31(土)
文=前田賢紀