この記事の連載

 鎌倉で旦那さんと暮らしながら、ハワイや沖縄、もちろん東京でも料理の本を作ったり、取材をしたり。料理編集者・赤澤かおりさんは、どんなに忙しくても元気いっぱいなのです。

 忙しい毎日のなかで、ほっとするのはやっぱり、地元・鎌倉に戻って、もしくはおうちで目一杯働いて、お酒を飲む時間。基本的に前々から予約をとるよりも、その日のお腹に聞いて食べたいものと飲みたいものを求めて出かけます。

 ふっと時間が空いたとき、ひとりでふらりと出かけた鎌倉で、女性ひとりでお酒を楽しむなら? 今回は「秋に楽しみたいお蕎麦とお酒」をテーマに3軒を教えてもらいました。


2024年6月オープンの気になる新店へ

 収穫の秋、食欲の秋。この季節、聞きなれたこのフレーズを目にするたびに、そういえば、あれもこれもと、食べたいものへの思いは尽きず。新米にきのこ、新酒、栗、さつまいもなどなど、秋はいつも以上に食いしん坊ぶりに拍車がかかります。

 特に“新”と付くものには目がない私。待ち焦がれていた「新蕎麦」の季節到来ということで、今回は鎌倉でよく訪れるお蕎麦屋さん2軒と、気になっていた新店に出かけてきました。

 まずは、今年の6月、長谷にオープンした話題のお店「鎌倉 北橋」へ。ここは長谷にある甘縄神社の参道脇にあり、お正月に限らず、散歩の途中にもよく神社に立ち寄っては高台から広がる海を眺めたり、どんと焼きの季節にはお飾りを持って行ったりしてきた馴染みの通り。

 その参道のお膝元にある古い佇まいが素敵な洋館が、お蕎麦屋さんとカフェになったという話を今年の夏の初め頃からあちこちで聞いていて、気になっていました。

 特に、信頼できる酒屋さんが「きっと好きだと思うよ」という言葉は、私の奥底にずっと残っていて、夏の間、忙しくて身動きが取れない日々も、ふとした瞬間に思い出しては新蕎麦の季節には必ず行こう! と思っていたわけです。終わりがないかのように思えた暑すぎる夏もようやく落ち着きはじめ、秋の気配を感じる頃、私以上に食いしん坊な友人に誘われ、念願の初訪問を果たしました。

 大正14年前後に建てられたとされているこの建物は、佇まいは一見洋館ですが、和館もあり、その両方を生かして洋館ではカフェを、和館では広い庭園を眺めながらお蕎麦が楽しめるようになっています。こうした形にするにあたり、店主の北橋さんが大事にしたのは、以前、住んでいらした方の「この景観を残してほしい」という想い。だから、お店になった今も、今まで見えていた風景はさして変わることなく、この建物も景観も保たれていました。

 大正時代前後ということで、時期は定かではないにしても、相当な年代を重ねてきたものであることは確かですから、簡単に景観を保つといっても容易なことではなかったのでは、と思います。かつては作家の山口瞳先生がお住まいになっていた時代もあり、同じく作家の川端康成先生らとここで親交を深めていたという話も。

 洋風というのがまだ憧れだった時代に建てられただろう洋館では、朝からカフェと蕎麦粉を使った自家製のスイーツ、コーヒー、お酒も楽しめるので、お蕎麦の席が空くのを待ちながら、まずはここで一杯いただくのが最近の私のお気に入りになりました。

 スイーツは、自家製の蕎麦粉を使用したグルテンフリーの蕎麦粉の生シフォンケーキか、あればレモンケーキを。「気まぐれスイーツ」という名で登場する、バスクチーズケーキやロールケーキはいつか食べてみたいもの。それらにイタリアのシチリア産レモンをたっぷり使ったレモンサワーを合わせて、楽しいお蕎麦待ちタイム。うっかりおかわりしそうになる頃に、席が空いて和館に移動してお蕎麦をいただくという流れです。

2024.11.15(金)
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美