「いいですね~。私もビール飲も」

 山吹が注文を終える。すぐに板前さんが、

「はい、まずビールね!」

 とジョッキをカウンターに置いてくれた。

「ありがとうございます」

 受け取って、私たちは乾杯をした。

 爽やかな炭酸の刺激が心地よく、ほどよい苦味が口に広がる。よく冷えていておいしい。濃厚さを売りにしているものより、のど越しのいいビールのほうが好きだ。仕事のあとなら、なおさら。

「それで……今日卯月さんをごはんに誘ったのは、理由があるんですけど」

 口ひげのようなビールの泡を舌でなめながら、山吹が珍しくもじもじと肩をくねらせている。

「え、どうしたの?」

 山吹とごはんに行くことなんて、珍しくもなんともない。いつも理由なく一緒に食事をするし、飲みにも行く。今日に限ってどうしたのだろう。

「実は……」

 真剣な顔をしてもったいぶってみせる。

「彼氏ができました~!」

 そう言って、破顔した。

「おお! よかったじゃん」

 そうか、だから今日の山吹はご機嫌だったのか。

「それを卯月さんに報告したくって」

 にやにやを通り越して、でれでれした顔をしている。

「やったじゃん。おめでとう! のろけ話、いくらでも聞くよ」

「もお! 卯月さん最高です!」

 顔を見合わせて笑いながら、私たちはふたたび乾杯をした。

「この前、浅桜さんの結婚式あったじゃないですか」

 浅桜唯は同じ病棟にいた看護師で、去年結婚するために地元の北海道に帰った。三月に休みをとって、山吹と一緒に挙式に参列してきたばかりだ。

「あのとき、浅桜さんの後輩の男性看護師がいたんですよ。そんで、話してみたら私と同じ年で、しかも普段は都内の病院で働いているって話で!」

 一緒に参列したはずなのに、山吹はいつの間にそんな男の子と仲良くなったのだろう。ぜんぜん気づかなかった。

「連絡先交換して、こっち戻ってから会うようになって」

 デートを重ねて、つい先日正式にお付き合いを申し込まれたらしい。

2024.11.08(金)