「ほんとだ」

 天むすのように、からあげがごはんに包まれている。それをひとつと、普通の梅おにぎりを買うことにした。晴菜は、ミートソーススパゲティのはさまったパンを買っていた。

 大学院生には、院生室という部屋が用意されている。ひとりずつデスクがあり、集中して勉強できる環境が整っている。そこへ戻る途中のラウンジスペースに二人で腰をおろした。

「咲笑ちゃん、仕事でなんかあった?」

「え、なんで?」

「顔に書いてある。別に言わなくてもいいけど、話したければ聞くよ」

 晴菜は、さっぱりした優しさを持っている。ズカズカと踏み込んでこないで、気持ちをくんでくれる。こういう距離感が、一緒にいて心地いい。

「実は、ある高齢の患者さんがDNARになったんだけどさ……そのひ孫ちゃんが納得していないのよ」

「ああ、あるね、そういうこと。ひ孫ちゃん、何歳なの?」

「小学三年生って言ってたかな」

「うちの亮が二年生だから、同じくらいか」

「うん。小学生くらいの子って、もっと子供なのかと思ってた。でも、自分の家族が亡くなるかもしれないってことを、自分なりに一生懸命考えて、やっぱり納得がいかないって抗議してきて……。私、なんて言えばいいかわからなくて」

「そうだねえ。もっと幼ければ考えないだろうし、逆にもう少し大きければ大人の話し合いに混ぜてもらえる……微妙な年齢かもしれないね」

「だからこそ私が何か言ってあげられれば良かったんだろうけど……難しいなって思ってさ」

 午後は看護倫理の講義がある。倫理や道徳を看護にどう活かすか……まさに今の自分に必要な議題だと思った。

 廊下をほかの学生たちが通り過ぎていく。談笑する姿が楽しそうに見えて、なんだかうらやましかった。

 バッグの中でブブッとスマホがふるえる。

【明日、香坂さんのお見舞い行きますけど、卯月さん一緒にどうですか?】

 山吹からのラインだった。香坂さんは先週無事に手術を終えて、そろそろ退院できるらしい。もう何人か同僚たちがお見舞いに行っていたみたいだ。巨大な子宮筋腫を抱えていて子宮を全摘したらしい。予後はいいようだ。

2024.11.08(金)