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二人は恋をしているなって

 撮影を終えたあとに、「あなたの曲をたくさん聴きたいわ」と言ったら、レコードからお気に入りの曲を録音したカセットテープを自分で作って、「はい、お母さん」と渡してくれました。疲れて眠いでしょうに、一晩で持って来てくれたのが嬉しかった。そういう打てば響くところも、実に見事でした。

 まだ友和君との交際を宣言する前でしたが、二人は恋をしているなって、薄々気付いていました。沖縄ロケなども一緒に行きましたから、愛情の交換があることをなんとなく感じたのです。あとで聞くと、会えない日は仕事が終わると一人で喫茶店へ行って、友和君に電話をかけるのが、唯一の楽しみだったそうです。

 最後の日本武道館のコンサートも観に行きました。引き際が、また立派でしたよね。自分の人生にピシッとけじめをつけて、潔くスパッと辞めたら決して姿を見せません。「どうしてる? 元気?」とたまには電話でもかけたいところですが、そんな百恵さんの心意気がわかるから、こちらも我慢。

 友和君と仕事で一緒になったとき、こっそり「百恵ちゃん元気?」と訊くと、「元気です」「ああ、そう。よろしく言ってね」「はい、伝えておきます」。それくらいです。

 会いたいなぁ。どんなお母さんになったかしら。と思っていたら、次男の三浦貴大さんと、三年前に『ばぁちゃんロード』という映画で共演しました。「うわー、まだ二十歳前だったあの娘に、もう三十を超えた息子がいるのか」とびっくりしましたけど、二十一歳で引退したのは昭和五十五年ですから、当然ですね。

 私の娘を演じた百恵さんは、若いときから出来た女。あれから何年たっても、しっかりしない私……。

きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話

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文藝春秋
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2024.09.20(金)
文=草笛光子
写真=文藝春秋