よって、ずるーっとタン塩の上を滑り落ちていくタピ容器をスローモーションのように見送りながら、私はこう思っていました。

 しまった、横着しなけりゃ良かったな。でもすぐ拾えば問題ないか、と。

 しかし――石の床に落ちたタピは、「パアン!!!」という盛大な破裂音と共に、爆散したのでした。

 しばし、何が起こったのか分からず、私は唖然としました。

 日中、人の往来が多いコンビニの前で、タピを外界から隔絶していたビニールは「こんな破裂の仕方するの!?」と驚愕する勢いで弾け飛び、コロコロした蛙の卵みたいな黒い玉と甘ったるい紅茶が、そこらじゅうにぶちまけられたのです。

 まあ、打ちどころが悪かったという他ないのでしょうね……。

悲しき破裂……。 画:阿部智里さん
悲しき破裂……。 画:阿部智里さん

 一部がこぼれたという感じでは全くなく、中身はほぼほぼ全て吐き出され、容器の中身は何も残っていないという有様です。

 このご時世、コンビニのタピはスイーツの一種であり、ドリンクにしてはそれなりにお高いものです。楽しみだったスイーツを失った悲しみ、欲張った己の愚かさへの自嘲、ちゃんと落ち着いて荷物をパッキングしなかったことへの後悔などが激しく心中で渦を巻いていましたが、そんな私を助けてくれる人は誰もおらず、空は青く、風はさわやかで、愚かな作家はあくまでひとりでした。

 まさか、これをこのまま放置するわけにもいきません。

 半泣きになりながら覚悟を決め、手持ちのポケットティッシュとウェットティッシュで紅茶を吸い、素手でタピを拾い集めて容器に入れましたが、流石に約250gの紅茶を全て吸い上げるにはポケットティッシュでは足りませんでした。

 仕方なく私は一旦自宅に戻り、ボックスティッシュとウェットティッシュと苔に水をやる用の霧吹きとゴミを入れるためのビニール袋を携えて現場に戻りました。なんとか出来る限りの清掃をして、今度こその帰宅とあいなった頃には、結構な時間が経っておりました。

 前回のコラムを思い出して頂きたいのですが、これは、締め切りに追われる最中での出来事です。

2024.06.11(火)