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「パジャマが古くなったから、新しいのが欲しい」と頼んだら

 私が中学生の頃、着ていたパジャマが古くなって、あちこちに小さなほころびが出来始めたので、ある夜、両親の寝室へ行って「パジャマが古くなったから、新しいのが欲しい」と頼んだ。

 ふたりは外国映画に出てくる就寝前の夫婦みたいに、枕をクッション代わりに背中に置いて、上半身を起こしたままそれぞれ本を読んでいた。着ていたパジャマのほころび部分を見せながら「ほら」と、私がアピールすると、ふたりとも読んでいた本をパタリと閉じて、「ふうん……まだまだだな」と父、続いて母が「甘いわね」と、呟いた。

 するとまず母が、くるりと私の方へ背中を向けて「お母さんなんか、こう! だから」と、着ているパジャマの背面を見せた。母のパジャマは背中のヨーク部分(背面上部の台形型の切り替え部分)が破れて、布地が下に垂れ下がってごっそり穴が開いていた。するとそれを横で見ていた父が、ワハハと笑って「お母さん、そんなの序の口だろ」と煽った。躍起になった母が「その上! 両脇は、こう!」と万歳すると、脇の下の縫い目が両方ともきれいに裂けて、その裂け目から脇毛がワッサーはみ出ているではないか。それを見届けた父が、待ってましたとばかりに、その最終ヴェールを脱いだ。

「お父さんのは、こうだ!!」

 振り返った父のパジャマは背面がぜんぶなかった。まるで「おぼっちゃまくん」に出てくる「びんぼっちゃま」そっくりだったのである。返す言葉もなく突っ立っている私に向かって、「ね? ま、そういうことだから」と母が言って、この話は当然これでおしまいになった。

 なぜか当時は、この異様な光景に対しても、なんの疑問も持たず受け流していた自分。しかし、今こうして振り返ると、なぜお金があったくせにパジャマはどうでもよかったのか? とか、あの状態で洗濯して着続けていたというのか!? など、聞いてみたいことが噴出する。

 大方の予想では、世間でよく言われる“金持ちのケチ”に父も該当していたので、多分、人様には見せないパジャマには極端にお金をかけていなかったんじゃないかっていう。その後、呉服店のひとり娘は小遣いを貯めて、両親に新品のパジャマを贈った。自分のパジャマは買わずに……っていういい話も、おまけについている。

猫沢家の一族

定価 1,650円(税込)
集英社
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2024.03.29(金)
著者=猫沢エミ