●「音叉」とのリンクがエモい!

 このアルフィーのデビュー前のエピソードは、髙見澤俊彦さんの小説「音叉」と心地よくリンクする。「音叉」は若きバンドマンたちの青春が描かれているが、そのバンドのデビュー前の名も「グッド・スメル」という、臭い消し商品に由来する名前なのである。桜井さんの「コンフィデンス」のエピソードだ! つながって興奮した。

「音叉」には、70年代の音楽、安保で揺れた風景や夢や挫折がギュギュッと詰まっている。伝説のバンド「はっぴいえんど」も主人公たちの会話のなかに登場するのだが、アルフィーのデビュー曲をそのメンバーの一人、松本隆さんが彩っていることを考えると、なんともエモーショナル!

 小説には、途中脱退する4人目のメンバー、やさしいムードメーカーの啓太が出てくる。もしかしたら、アルフィーの4人時代の懐かしい出来事も反映されているのかもしれない――勝手な想像ながら、心がじんわりした。

●アルフィーを追うと1970年代に興味が湧く

 アルフィーのデビューを追っていると、芋づる式で、1974年にも興味が出てくるから不思議だ。アルフィーデビュー(8月)の3か月前には豊洲にセブンイレブン1号店が出店。デビューから2週間後には伝説のアニメ「グレートマジンガー」の放送が開始され、2か月後には「がんばれ!!ロボコン」が開始。

 百恵ちゃんやジュリー、森進一、殿さまキングス、井上陽水などなど、アイドルもフォークも演歌も、ギラギラに光り輝き、ヒットチャートでせめぎ合っていた時代。アルフィーはそのむせかえるようなエンタメの波にもまれながらデビューし、七転八倒、切磋琢磨し、バブルも世紀末も平成も乗り越えて、今なお少年のようだ。

 奇跡的なジュブナイル。彼らの音楽愛と好奇心の底が見つからない! 謎がどんどん深まり、まだデビューアルバム1枚目なのにこの状態。後編まとまるのだろうか。スターシップがエンストを起こしそうである。

 アルフィーの50年を追う旅は、涙のしずくが星になるほど長い旅になりそうだ――。

 さて、今回の最後は、シンプルな、あるアルフィー・ミステリーについて。3人が、あんなにずっと仲が良くいられるのはどうしてだろうか。

「オーバー・ドライブ」の、高見沢さんのこんな言葉に、ほんの、ほんの少しだが、ヒントが見えた気がした。

「ぼくが坂崎と桜井をはじめ、コンフィデンスのメンバーとあんなにあっという間に仲良くなれたのは、すごく健康的に見えたからなんですよ」

「音楽どうのこうのという以上に、当時は友達としてずっと付き合っていきたいという思いの方が強かったって気がしますね」

 ああ、最高の出会いだったのだな。

 健康的って、すごくいいな。

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田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2024.03.26(火)
文=田中 稲