この記事の連載
- THE ALFEEのアルバム全部聴いてみた#1
- THE ALFEE #2
- THE ALFEE #3
●なぜ売れなかったのかさっぱりわからないファーストアルバム
ということで、昭和57年(1982年)発売、アルフィー著「オーバー・ドライブ」(八曜社)と高見沢さんが髙見澤俊彦名義で70年代を書いた小説「音叉」、そして1974年から1975年の楽曲が入ったアルバム「青春の記憶+2」を取り寄せる。アーマゾーン!
初っ端から、彼らがアイドルとしてデビューしたという情報に驚く。「オーバー・ドライブ」の坂崎さんの記述によると、「芸能界とフォークの世界の宙ぶらりんのところでアイドル風にやっていた」というではないか。
ど、どういう状態なのだろうか。さっそくこの耳で確認しよう。時折口ずさんでしまうかもしれないがお許しいただきたい。
「青春の記憶+2」、プレイボタン・オン!
せっ、センチメンタルキュート! エッ、これ、ちょ、いや、エッ(戸惑う)。名盤の香りが漂ってますけど! 1曲目の「青春の記憶」から繊細でジューシー。間奏で鳴る木琴がまた(泣)。ポプコン大好きな私にとっては超ド真ん中のサウンドである。ちいさな愛っでー♪
しかも作詞作曲を見ると、松本隆&筒美京平の黄金コンビ。松本隆さんは作詞家としての活動に専念するようになってまだ間もないときだったはず。アルフィーも松本隆さんも、今なお第一線ってスゴイな!
聴き進めよう。「真夏の夢」、スカポコ入るパーカッションが下駄の音に聴こえて、70年代独特のバンカラベルボトムが妄想できて胸キュン! 君ッと過ごしッたー……♪ デビューシングル「夏しぐれ」も叙情的でいい曲ではないか。リードボーカルをとっていた高見沢さんは「絶対売れる」と周りに期待される重圧により、ストレスで喉が腫れたという。そんなエピソードを知るとより切なく聞こえてくる。
お気に入りは耳にコソコソッとくすぐったいウィスパーボイスで始まる「心の扉」だ。ていねいに声を置くような歌い方の静かさ、「恋人達のペイヴメント」を思い出してしまった。「水入らずの午後」「一年目の春」のメランコリーフレイバーも大好物だ。
最後から2曲目で「府中捕物控」という突然の変化球がくるが、これはこれでいい曲である。さんさん三億えーん♪
最後の曲「明日からよその人」(タイトルも秀逸)を聴き終わると同時に私は茶をすすり、窓ガラスの向うの空を見つめた。
素晴らしい――。ファンの方にとっては超今さら案件だろうが、すごいものを聴いてしまった感が。売り上げ的には今一つだったというが、なぜ売れなったのかさっぱりわからない。
しかも興味深いのは、大ブレイク曲「メリーアン」とスタイルが違いすぎる。ここからどういったプロセスを踏んでウォンチュッステッフォーミーになるのか。謎は深まるばかりだ。
2024.03.26(火)
文=田中 稲