小説は強烈ですが、映画はめちゃくちゃ笑えるものに

遠山 今度、映画化もされるそうですが、どんなスケジュールなんですか?

安藤 昨年3月~4月に高知で撮影してもう完成しています。今年公開予定です。

遠山 映画って完成してから公開まですごい時間かかるんですねー。

安藤 崩壊つづきになりますが、映画界のシステムも崩壊しかかっているんです。大手映画会社は劇場やシネコンを持ってますが、私たちのような独立系のプロダクションは基本的には、単館系の劇場を探すところから始めねばならない。劇場の力が強くて、製作費をすべて自分たちで集めてつくっても、興行収入も劇場と折半。そこからさらに、配給会社が20%をもっていく。これじゃ、回収できないのは当たり前。だから、独立系のプロダクションもどんどん潰れていく。うちも死にもの狂いです。逆にいえば、時間をかけてていねいな仕事をする以外、我々に勝ち目はないのかもしれない。

遠山 こういう話って、触り心地がよいわけではないし、売りやすくはないですよね。

安藤 ところがどっこい!! 小説は文字なので強烈な部分もありますが、映画は、けっこう笑いも満載(笑)。ペーソスがあります!

遠山 えーっ?(笑)

安藤 撮影した高知県で何度か上映会をしたんですけど、老若男女、みんな大爆笑してくれて。年老いたじいさんが女にふりまわされる姿が単に滑稽というのもあるだろうし、キャストの坂田利夫さんもかわいいんです。3時間16分もあるんですが、映画に興味なさそうなお客さんも誰も席を立たず、上映後におばあちゃんが「ううううう」って声を詰まらせて、「ありがとうございました、老人に光を与えてくださいました」と、涙して下さった事もありました。

遠山 へえっ。

安藤 作品をつくるのって、おっしゃる通り自分をさらけ出しているので、全裸で舞台に立つほうがマシだと思うほど緊張するし、怖いです。でも、そんな究極の状況で、誰かに伝わった……と思えた瞬間、本当に、感極まります。

遠山 映画って、いろんな人が一緒につくるじゃないですか。その中で、自分の思った通りにやるのってなかなか大変じゃないですか?

安藤 初監督した映画『カケラ』を撮る前に、オヤジに言われたんです。「崖からとびおりる決意を持たない者には、空を飛ぶ権利はない」って。初めてのことって、実際にやってみないと分からないことだらけですが、ひとつ自分に約束しようと思ったのは、「120%、もう絞れません!」と思えるまで、力を出し切るようにしようと。そうすれば、その結果が、たとえ未熟なものでも、間違えても、その時の自分を振り返って、後悔はしないだろうと。

遠山 しかも、映画の現状として売れないとダメと言うのもあるわけですよね。

安藤 そうですね。もちろん独りよがりはダメだけど、黒か白かを大胆に判断しなければならないこともあります。それをグレーにした瞬間に黒を見たい人も白を見たい人も両者を失ってしまう。

遠山 なるほど。

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2014.02.15(土)