塩タンをロースターに押しつけ、己語りを続けていると、まるで自分のしみったれた話がそのまま肉の焦げ跡へと炭化していくような錯覚に陥った。「焼けろや、焼けろや」と自虐的な気分に浸りながら、端がカリカリになった塩タンを口に放りこみ、ビールで腹へと流し去った。十日前に彼女にフラれてから、栄養を摂取したらそれでよいとばかりに、納豆ごはんに生卵を投入したものばかりを食べていたので、ひさびさのちゃんと肉の味がする肉は、心底うまかった。まるで竜宮城に招かれた気分で、俺はプライベートの話を垂れ流す代わりに、ひたすら舌鼓を打ち続けた。

 あらかたの話が終わったところで、

「なるほど」

 と二杯目のビールジョッキを飲み干し、多聞はぷふうと上気した頰を膨らませた。

「何が、なるほどだ」

「お前のスケジュールはわかった。お盆のあたりまで何の予定もない。八月はずっと京都にいるということだ」

「何の話をしている」

「俺の話だよ。研究室のことで相談があると言っただろう」

 多聞は店員を呼び止め、「おかわり」とジョッキを掲げて見せた。

「俺は五回生だ。留年野郎だ」

 多聞はおもむろに自己紹介を始めた。

「知ってる」

「お前にはまだ言っていなかったけど、企業の内定をもらった」

「え、そうなの?」

 いつの間に、と完全に虚を突かれた俺に、多聞は耳にしたことがあるような、ないような、カタカナの会社の名前を告げた。外資系のコンサルティング会社だという。

「よく、受かったな――。五月に飲んだとき、ひと言もそんな話なかっただろ」

 破戒僧の如き野性的な顔に、ムフフと不敵な笑みを浮かべ、多聞はロースターの上に新しい肉をじゅうと並べた。

「そういうわけで、来年、俺は卒業しなくてはいけない。でも、今のままだと卒業できない」

「卒業式まで、まだたっぷり時間はあるぞ」

「問題は研究室だ」

 多聞が説明するところによると、文系とは異なり、理系の学生は四回生の時点で研究室に所属することが必須なのだという。なぜなら、研究室にある機材を使って実験を重ね、そこで得たデータを元に卒業論文を作成し、それが教授に認められてはじめて卒業への扉が開かれるからだ。

2024.02.01(木)