この記事の連載
「界 加賀」【前篇】
「界 加賀」【後篇】
伝統工芸を散りばめた風情豊かな温泉へ
![内風呂の壁面を彩る九谷焼のアートパネルを眺めながらのんびり湯浴み。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/6/5/1280wm/img_65569d76bf05477d104fefe3e28cc26e108606.jpg)
「界 加賀」のある山代温泉の開湯は、約1,300年前にさかのぼると言われます。伝説によれば、高僧・行基が霊峰白山へ向かう道すがら、涌き出る温泉で傷を癒す八咫烏(ヤタガラス)を発見したのが始まりだとか。ちなみに、山代温泉のマスコット「やましろすぱクロ」くんも、この開湯伝説の八咫烏がモデルです。
泉質はナトリウム・カルシウム‐硫酸塩・塩化物泉で、肌当たりはとろりとなめらか、湯冷めしにくい“美人の湯”。「界 加賀」では、大浴場と、部屋付き(一部)の露天風呂で楽しむことができます。
![九谷焼アートパネルは、男湯女湯合わせて計8人の若手作家が自由な発想でデザイン。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/c/d/1280wm/img_cd8645a40b3648798a6b473cb04c7f54122560.jpg)
![内風呂と露天風呂の仕切りガラスには、金箔で霊峰白山が描かれている。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/a/2/1280wm/img_a23c86d1d9bf72f8168608f3e2e4b4d1153191.jpg)
大浴場「九谷の湯」には、湯船に浸かりながら加賀文化に浸れる仕掛けが随所に施されています。内湯の壁面には、九谷焼の若手作家によるアートパネルを組み込み、色絵、青手、赤絵、藍九谷という伝統的な4つの九谷焼様式で、加賀の春夏秋冬を表現しています。
露天風呂との仕切りガラスには、金箔国内生産量の9割を誇る金沢箔で加賀地方の象徴である白山が描き出され、背後の松の庭を引き立てます。そして、湯上がり処には、金沢の希少伝統工芸に指定されている加賀提灯。竹骨を1本ずつ円形に組んで作り上げる美しい曲線が特徴的です。
共同浴場「古総湯」で昔ながらの湯浴み体験
宿の目の前には、古きよき温泉情緒が漂う公衆浴場「古総湯(こそうゆ)」と「総湯」があり、その周りを温泉宿や商店が取り囲む「湯の曲輪(ゆのがわ)」と呼ばれる街並みを見ることができます。
![左手奥が「界 加賀」、右手前が明治時代の総湯(共同浴場)を復元した「古総湯」。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/1280wm/img_3790cf964cf2e1852efe12743a362fba157803.jpg)
「界 加賀」の宿泊ゲストは、明治期の共同浴場を復元した「古総湯」を無料で利用できるので、ぜひとも入浴を。入浴方法は当時のままで、カランやシャワーはなし。脱衣スペースで服を脱いだら、かけ湯をして湯船に浸かります。
当時最先端だったステンドグラスの色鮮やかな光が湯船に映り、艶のある壁は拭き漆、湯船を囲むタイルは当時の絵柄を忠実に再現した九谷焼で、昔日の風情が感じられます。
![こけら葺きの屋根と2階の窓の意匠が印象的な「古総湯」の外観。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/d/c/1280wm/img_dc9c3bd7c89cb897deb6ac8975237e77176893.jpg)
![営業時間は6時から22時(12月~2月は7時から21時)、第4水曜の6時から12時は休業。利用料は大人500円。「界 加賀」宿泊者は無料。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/1280wm/img_3781e75f2cfac99b8664def2b9b5dc90186097.jpg)
朝湯のあとは「いしる鍋」の朝食が楽しみ
「古総湯」の湯は源泉かけ流しで42~43度ほどと熱め。朝に入浴すれば交感神経が刺激され体がシャキッと目覚めます。2階の休憩所も当時のままに復元されているので、火照った体をゆっくり休めましょう。そのうちお腹がグ~ッと鳴ったら(昨晩あんなに食べたのに……)、宿に戻って朝食を。
![つやつやの白飯が進むおかずがずらりと並ぶ、王道的旅館の朝ごはん。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/0/4/1280wm/img_0410b25eb9831d1423bf1f5a324e1c9e141501.jpg)
朝食の目玉は、能登半島の伝統的な魚醤「いしる」を使った鍋。深い旨味の出汁が、体中にじんわりとしみわたります。さらに、焼き魚、だし巻き卵、青菜のお浸し、椎茸真薯、利休牛蒡など、ご飯のお供がもりだくさん。お代わりせずにはいられません。
2023.12.29(金)
文=伊藤由起
撮影=志水 隆