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脚本家・生方美久にしか書けないもの

――いま放送されている『いちばんすきな花』について聞かせてください。『silent』で連ドラデビューを果たした脚本家の生方美久さんとの再タッグですが、どんなところから企画がスタートしましたか?

 『silent』は、新人の生方さんと手探りで始めました。当時から取材のたびに「すごい才能を見つけた」「天才だ」と言っていましたけど、実際はどこまで書けるか未知数だった。でも、いざやってみたら、想像以上でした。

――「天才」以上。

 本物の才能でした。僕、本気で、生方さんは日本ドラマ界・映画界の至宝だと思っています。野球でいう大谷翔平みたいな。だから、気楽に彼女と向き合っていてはいけないと感じました。この才能を僕の手でデビューさせたのであれば、次は彼女のよさをもっと引き出さなければいけないと思ったし、それをすれば絶対に面白いものが作れると思いました。

 ドラマのプロデュースもだけれど、生方美久という脚本家のプロデュースでもありますよね。彼女の2作目は、もっと“彼女にしか書けないもの"を目指したいなと思ったんです。

――それを踏まえて、具体的にはどんなふうに作っていったんでしょう?

僕は雑談からドラマ作りを始めるんですよ。どんなドラマにするか、人物設定や展開を脚本家と長い時間をかけて話し合う。今回も生方さんと話していくうちに、だんだんと設定が作られ、キャラクターが生まれていきました。その時点でもう、生方さんが書いてきてくれた4人のキャラクターがとても面白かったんです。だから、「キャラクターを見つめているだけで飽きないドラマ」という、自分がいちばんやりたかったものをやってみようと。その最初の思いをそのまま形にできたと思っています。

※ドラマの主人公である、潮ゆくえ(多部未華子)、春木椿(松下洸平)、深雪夜々(今田美桜)、佐藤紅葉(神尾楓珠)の4人

――取材時点では放送は終盤に差し掛かっていますが、4人をつなぐ志木美鳥という存在が登場してまたドラマが違う局面を迎えましたね。

 美鳥を登場させるのは、実は最初から決まっていました。けれど、ぐっとこらえて、どの取材でも一切匂わせもせずにきた。生方さんと仕掛けたこの狙いがちゃんと盛り上がってくれて、「やった!」 という気持ちです。

――そのキーパーソンである美鳥を田中麗奈さんが演じているのも絶妙ですね。

 田中さんご本人も僕もドキドキしてました。ちょっとないくらいにハードルが上がっている状態で登場してくるわけですから。4人それぞれが異なる印象を持っている、多面性のある美鳥という役のキャスティングは考えに考えて、彼女しかいないと。そしたら、7話のラストで麗奈さんが映ったときにSNSで「このキャスティングした人天才!」という意見がいっぱいあった。嬉しかったですね。麗奈さんに言いましたもん、「麗奈さんのおかげで僕、天才って言われてます!」と(笑)。

2023.12.21(木)
文=釣木文恵
写真=深野未季