著者は、「緊立ち」という言葉の意味が分からないうちから、「何か大変なことが起きていることが想起される。タイトルはこれだ!」と決めていたという。

「緊立ち」の正式名称は「緊急立ち回り情報」。

 これが発令されると、指名手配犯が今ここにいる! 刑事たちは、可能な限り迅速に布陣を敷いて現場に向かう。

 プライドをかけた捜査が、とてつもないリアリティと緊迫感を持って描かれている。
 
 この小説のもう一つの魅力は、捜査の現場をはなれた刑事たちの「人生」が描かれていることだ。都心の雑居ビル無差別爆発事件に巻き込まれたり、強盗殺人の手配犯を追いかける日々の中で、結婚、離婚、子育て、親の介護などと向き合う刑事たちの体温が感じられる物語となっている。

「警察小説を書く、と意気込んで始めたのですが、やはり私は『刑事という職業を選んだ人が、どんな人生を生きるのか』ということに興味があるんですね。

 例えば、見当たり捜査をする小桃から相談を受ける燈さんは、広域捜査という仕事柄、地方での張り込みなども多いんです。朝から晩まで、仕事をした後、子供に唐揚げを作って、夫の親の介護のことを考えたりもする。そんな生身の刑事の姿を書くのは、とても楽しかったですね」

 圧巻のリアリティで描かれる逮捕劇と、ライフステージごとに降りかかるプライベートの難題に向き合う刑事の日常を綴った「令和の警察小説」が誕生した。


乃南アサ(のなみ・あさ) 1960年東京生まれ。1996年『凍える牙』で第115回直木賞受賞。2011年『地のはてから』で第6回中央公論文芸賞、16年には『水曜日の凱歌』で第66回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。『女刑事音道貴子・凍える牙』『結婚詐欺師』『いつか陽のあたる場所で』『しゃぼん玉』『ウツボカズラの夢』など映像化された作品多数。

緊立ち 警視庁捜査共助課

定価 1,980円(税込)
文藝春秋
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2023.10.11(水)