美智子さまのさりげない気遣いがちりばめられたファッション

 例えば、1987年(昭和62年)、皇太子同妃時代の上皇ご夫妻がアメリカを訪問され、レーガン大統領夫妻主催の晩さん会が催された時には、美智子さまのドレスの胸元に飾られていたのは、アメリカの国花「ハナミズキ」でした。こうした、さりげない気遣いは海外でとても評価され、友好関係をさらに深めることになりました。

 さらに美智子さまは、その国の文化や風土などに合わせて、現地の人びとを魅了していきました。

 1993年、ヨーロッパを訪問された時のこと。イタリアで美智子さまが身にまとわれたドレスの色は、鮮やかなイエローとブルーのイタリアンカラー。国民が喜ばないわけがありません。

 2007年にスウェーデンを訪問した時には、胸元にスウェーデンの国花である「すずらん」のコサージュが飾られていました。同じ年、美智子さまは上皇さまとともにバルト3国を訪問されたのですが、それぞれの国に合わせた装いをされていました。

 エストニアでは国旗の青・白・黒の3色を配した洋服をお召しになり、ラトビアを訪問された時は国旗のえんじ色と白の洋服。リトアニアでは国旗の黄・緑・赤の色が入ったコサージュを胸元に付けていらっしゃいました。

 訪問する国に敬意を表し、日本に一層の親しみを持ってほしいとの思いが、美智子さまのファッションに隠されていたのです。

 雅子さまも、美智子さまのなさりようをご覧になって、ご結婚の翌年、1994年(平成6年)にサウジアラビア、オマーン、カタール、バーレーンを訪問されました。その時、雅子さまの洋服は、ジャケットの飾りボタンにバラ模様のデザインが。

 イスラム教で白いバラは創始者のマホメットを表し、赤いバラはアラーの神を表すと言われています。訪れるアラブの国々に親愛の気持ちを込めて、このデザインにされたのでしょう。

 2014年に、オランダ国王夫妻が国賓として来日した時には、雅子さまはオレンジ色のスーツを着て出迎えました。オランダでは国王の誕生日に、国中がオレンジカラー一色に染まるほど、オレンジ色は国家を象徴する色なのです。 

 このように美智子さまと雅子さまは、海外訪問だけなく遠来のお客様へもお召し物やアクセサリーに趣向を凝らし、いわば真心を示されてきました。

 そして、そのお気持ちは時に壮大な物語となって、歴史的な逸話へと変貌を遂げていきます。

2022.09.22(木)
文=つげのり子